「真空、行くわよ」
「はい・・・」
大きな荷物はあらかじめ運んでもらっているから、私はいつも出掛ける時に使っている小さめのカバンを持って家を出た。
外に出て振り返り、家を見つめていると・・・。
「真空ー!」
あの人の、声がした。
「氷空くん・・・!」
お見送り、かな・・・?
っていうか氷空くん、私の家を知ってたんだっけ・・・?
あ、蓮羅くんが特定したのかな・・・?
そうだとしたら怖いなぁ・・・。
「真空ちゃ~ん!」
「・・・真空」
「真空ちゃん!」
「真空~!!」
「義姉様!」
蓮羅くん、心珠、琴李くん、葵厘、そして葵華。
みんな・・・来てくれた。
「真空・・・の、お友達かい?」
「・・・はい、お父さん。私の大切な・・・大切な、友達です」
「・・・そう、か・・・」
どこか後悔したような声がして振り返ると、お父さんは泣いていた。
「・・・お父さん?どうされたのですか・・・?」
よく見ると、お母さんも泣いていた。
「真空・・・ごめんなさい・・・」
「真空・・・っ、僕たちが間違っていたよ・・・」
お母さんとお父さんは地面に膝を付け、謝ってくる。
「な、なにしているのですか・・・?」
プライドの高い2人が娘の私にこんなことするなんて・・・。
「真空に大切なお友達がいるのを忘れていたわ・・・ごめんなさい・・・」
「気づかなかったとはいえ、真空と友達を引き離すようなことをして・・・本当にすまない」
「・・・え・・・?」
慌ててみんなほうを見ると、ニヤリと笑う氷空くんの姿。
まるで『これが俺たちの作戦だ』と言ってるみたいで、目に涙が浮かぶ。
「真空・・・もう準備はしてしまったけど、引っ越しはやめましょう。真空にとって大切なお友達と引き離すことなんて、親としてできないわ・・・」
「それにその男の子は・・・」
お母さんが引っ越し中止と告げ、お父さんが心珠を指差す。
「真空の・・・お兄ちゃんじゃないか・・・?心珠、だろう・・・?会ったのか・・・」
どこか嬉しそうな声で、お父さんが訊いてくる。
「あぁ・・・父さん。俺だ。母さんも・・・久しぶりだ、な・・・」
そっか・・・私と心珠は双子だから両親も同じ・・・。
「心珠・・・私が言っていいコトじゃないけど・・・幸せに、なれたかしら?」
「・・・はい。まぁ、学園で真空と再会できたことで充分でしたけどね」
最後に微笑を浮かべて両親に言った心珠はどこか生き生きとしていた。
「真空・・・どうする?」
「え?なにがですか」
お父さんが怯えるように言ってきて私は首をを傾げる。
「もう、こんな親嫌だろう・・・?真空を見捨てるとかそんなことじゃなくて、僕たちといたくなかったら・・・その、僕たちは他のどこかに・・・」
「えぇ・・・えぇ、そうね。私たちは真空と居ていいわけがないんだもの・・・ホントにごめんなさい。せめてもの償い・・・ただの、罪滅ぼしでもいいから──」
「お父さん、お母さん。私は2人と住みたいな。駄目・・・?」
今まで・・・2人と仲良く暮らしたことはなかった。
一緒に住んでても厳しく指導してもらってただけだし、ご飯は別々、寝る部屋も幼児でも1人。
学校から帰っても誰も居なくて、両親が帰ってきたらすぐに勉強。
そんな日々は終わったけど──やっぱり両親とは仲良しで暮らしたいよね。
「真空・・・キミは・・・優しすぎるよ。誰かに騙されないようにね?」
「はい、お父さん。詐欺などには気を付けます」
「そういうコトじゃないんだけどね・・・。まぁ、いっか」
お父さんに続いてお母さんも少し遠慮したような笑みを浮かべる。
「真空、これからはお友達の家と同じような・・・理想の家庭を築いていきましょ」
「・・・理想の家庭・・・?」
「えぇ。いつも穏やかで、いけないことをしたら叱って、仲直りして、一緒に出掛けて、一緒にご飯を食べて・・・一緒に寝ましょう」
「・・・はい。でも最後は・・・せめて、一緒なのはお部屋で」
「あら・・・なんなら大きなベッドも用意するのだけど・・・いいわ、そうしましょう。楽しみね」
とりあえず・・・引っ越しは中止で、今日からは私が夢見てきた生活が待ってるのかな・・・?
「・・・あ、真空」
「ん?」
ずっと会話を見守っていた氷空くんから声がかけられる。
「そうだ、真空、お友達たちを紹介してくれるかしら?」
「はい。こちらから──」
私の夢は、また1つ叶ったようだ。