「み、みんな、とにかく・・・ごめんなさい。これを伝えたかっただけだからっ・・・」
みんな、私のためにいろんなことをしようとしてくれているのはわかる。
わかってるから・・・もう、みんなといるのがつらいんだ。
みんなの怒りは私への優しさだと。
そんなこと、わかりたくなかった。
だって・・・これ以上みんなといると泣いちゃうのが分かる。
そのあと私は・・・『権力を使ってほしい』と。
『私の両親に引っ越し中止を言ってほしい』と。
そんなことを言ってしまうに違いないから。
それにみんなは・・・私がそういえば、絶対に言った通りにしてくれるだろうから。
1週間後──私は1人で、静かにここを去るつもりだ。
「真空・・・!待って、どこ行くつもりっ?」
トントントン、と廊下を走る音がして・・・。
「氷空、くんっ・・・」
──大好きな人の、声がした。
名前を呼んでもらえることが、嬉しかった。
「私っ・・・引っ越しを止めるコトどころか早めちゃったっ・・・。どうしよう、私・・・もう、みんながいないと無理なのに・・・っ」
「真空・・・待ってて。絶対に・・・引っ越しを止めて見せる。Vistaと蒼鷺がいればできないことなんてない!・・・真空がいればもっと最強だからさ。1週間、1週間だけ我慢してほしい」
「氷空くん・・・あのね、そんなことしなくていいんだよ。権力は・・・、たった1人のために使うためにあるわけじゃない・・・理不尽な人を救ったりするため・・・ね?」
氷空くんのその気持ちだけで・・・私は満足してココを離れられる。
むこうでみんなのような友達ができるはわからないけど・・・大人になったら、1人ででも戻ってくるから。
それまで待っててくれれば、それでもういいよ。
「真空がよくても俺たちはよくない。勝手にやってるだけだから・・・心配はしなくて大丈夫。あとね、権力は使わない。使うのは権力じゃなくて──友情だ」
「・・・友情?」
「そう。イイでしょ?なんかすごい大切な友達に使う感じがして」
「・・・嬉しいけど・・・私たちの絆がどんなに強くても、私の両親は友情なんて気にしないよ」
そうだ、私の両親は私たちの友達関係なんて気にしない。
だから勝手に引っ越しを決められるわけだし。
「気持ちだけで充分っ・・・」
「・・・ではないでしょ?」
優しく包み込むような声がして顔を上げると、声とは裏腹に鋭い視線で目を細める氷空くんが。
「真空との友情はそんなんで充分になるほど弱くない。ほんとは俺たちといたいんじゃないの?ここで気を遣っても意味はないよ」
「・・・っ、別、に・・・私は、そんなんじゃ・・・」
「そんなんでしょ。わかってるよ?好きなんだからそれくらい」
「・・・?」
どこか切ない、真剣な瞳で見つめてくる氷空くんに首を傾げた。
「うわ、さりげなく告ったのにスルーかぁ・・・なかなか手強いね、真空」
ショックを受けたような、でもすごく熱っぽい目で見つめられて私はビックリする。
「だっ・・・だいじょーぶっ?!目がウルウルしてる・・・っ!ね、熱っ?!」
顔も若干赤いし・・・風邪とか・・・。
「保健室行こ!えっと・・・歩、ける・・・?」
「・・・っ、ぷ・・・あははっ。いいね、なんか燃える!」
「も、燃えるっ?!」
体が熱いとか・・・?
「悪寒とか無いっ・・・?!みんな呼ぼうか?!保健室の先生の方がいい?!」
「あはははははっ!!待って真空、面白すぎる!・・・あ、体調は大丈夫。ちょっと笑いすぎた・・・から?」
・・・から?顔が赤いってこと?
ならいいけど・・・無理してそうでもないし。
「・・・んで、仕切り直すけど。真空って好きな男、いる?」
「それは・・・恋愛的に?」
「そう。いるの?いないの?彼氏は・・・さすがにいない?」
好きな人・・・私にはずっと未来なコトな気がするなぁ。
「いないよ?」
好きな人どころか彼氏もいないし・・・え、みんなもう恋人いるの?!
私、そういう系苦手だからなぁ・・・。
「じゃあ考えてほしいんだけど・・・」
「え?恋愛したことない私に訊いてもなにも分からないよ?」
「違う違う。恋愛初心者だから訊いてるの。・・・俺と付き合わない?」
オレトツキアワナイ・・・?
「・・・えっと・・・?」
「俺は真空のコト、恋愛的に好きだよ。真空に好きな男がいないなら・・・俺のコトも、候補に入れてほしい」
「こ、候補って・・・それは引く手あまたな人のコトを言うんだよ?」
「真空じゃん。ってことで、答えは急がなくていいけど・・・まぁ、引っ越し中止の日になったらくらいに聞かせてほしいな」
1週間後じゃん・・・普通に急かしてない?
「・・・ってことは?」
「これは・・・告白、だね」
私の心を読んだのか、氷空くんが意味ありげに笑う。
「・・・あり、がとう・・・?」
「ふはっ・・・告白されてありがとうか!それも学校で結構なモテ男に・・・真空はやっぱいいね」
「・・・どうも。じゃあ・・・すぐに返事できなくてごめん。1週間後には答えを出すけど・・・1コいい?」
「なぁに?」
私は引っ越す。
しかも独り立ちするまで・・・ここまで帰ってこれない。
下手したら一生帰ってこれないかもしれないのだ。
「もし私が氷空くんの告白をOKして・・・でも、そしたら遠距離になるよ?それが一生続くかもしれないんだから・・・やめておいたほうが──」
「もー、わかってないなぁ・・・引っ越しは俺たちの友情で止めるの。絶対に引っ越しは中止になるから安心して。真剣に考えてね。迷惑かけるとか、そんなことありえないから」
「・・・うん。考える。好きになってくれてありがとう、氷空くん」
私が氷空くんに笑いかけると、氷空くんは困ったような笑みを浮かべた。
「どーいたしまして。・・・ん-、なんかでも・・・ねぇ?『好きになってくれてありがとう』なんて振られた時に言われるセリフみたいだなぁ・・・もう振られた気分」
「えぇ・・・!そうなの?!ごっ・・・ごめんね?!知らなくて・・・とりあえずお礼は言っておいた方がいいかなって・・・わぁ、言い訳みたいっ・・・」
「あー、大丈夫大丈夫。真空に悪気があるなんて思ってないし。じゃあ俺はみんな連れて教室戻るけど・・・どうする?」
私は、首をかしげて訊いてくる氷空くんに甘えることにした。
「ごめんなさい・・・しばらくみんなを私に近づけないでほしい・・・氷空くん、みんなを止めてくれる?」
「もちろん。好きな人のためなら。あ、俺はいい?」
「うん、氷空くんなら・・・」
もう話しちゃってるし、と笑うと氷空くんはニヤッとした。
「じゃあ1週間、俺が真空のコト独占できちゃうね」
わ、なんか私が仕向けたみたいで恥ずかしいっ・・・。