次の日──
私は昨日、両親が帰ってきたことを氷空くんに連絡し、今日から実家に戻ると伝えておいた。
・・・よし、学園でみんなに会ったら・・・引っ越しが早まったしまったこと、告白して謝るんだ。
「おっはよ~」
学園の敷地に入った途端、今日も元気な蓮羅くんが現れる。
「おはよう、蓮羅くん」
「おー、真空!おはよ!」
「氷空くんもおはようっ」
心珠と琴李くんと葵厘はいないから2人が待っててくれたのかな?
「早く行こっか!みんな教室で待ってるよ~」
「ホントはみんなで待つつもりだったんだけど・・・目立ちすぎてたからじゃんけんで勝った俺らが待ってることにしたんだ」
「そうなんだ・・・!ありがとう、行こう!」
みんなを待たせるわけにはいかない・・・!
最後なんだし、迷惑はかけたくないしね!!
「見て・・・!あれ、氷空様と蓮羅様・・・!真空様のこと挟んでるね・・・!!」
「美男美女・・・!朝から目の保養だね~・・・!!」
「氷空様かっこいい!今日も爽やか王子~!!」
「蓮羅様可愛らしい!弟になってほしい~!!」
「真空様絶世の美女!華やかすぎて眩し~!!」
ギャラリー?がたくさんいる校門から校舎までの道を歩いていくと。
「真空様!あの、家庭部入りませんか?!ご飯とかの料理科とデザート科があるんです!和食と洋食と・・・和菓子と洋菓子が!」
「氷空様~!バスケ部入ってください!マネージャーやってるんですけど、今のバスケ部弱くって・・・!」
「蓮羅様!サッカー部どうですかっ?蓮羅様ならエース狙えちゃいますよ!!お願いします!部員を増えると思うんです・・・!」
まぁ、部活勧誘は慣れてるから別に・・・『邪魔だなぁ』って思うくらい。
氷空くんが前を行って道をかき分けてくれて、私と蓮羅くんはその道を通る。
ふぅ・・・体力はあるほうだと思うから余裕だけど・・・勧誘を断るのは精神がえぐられるなぁ・・・。
まったく、みんなが教室で待ってくれてるんだから今日くらい気を利かせて・・・。
って、そんなの知ってるわけがないから無理か。
「おはよ!」
元気に挨拶して教室に入ると、みんながバッと振り向いた。
「おはよう真空ちゃん!」
「おはよう、真空」
「・・・真空、おはよう」
琴李くん、心珠、葵厘が順番に声を掛けて来て、私は笑顔を向ける。
「うん、おはよう、みんな!」
「お泊り会楽しかったねぇ・・・また半年で時間が余ったらしようね!次は僕の家来る?」
「あぁ・・・またしたいな。今度は俺の家でいい」
「・・・葵華が真空に会いたがってる。ずっとお泊り会?は俺の家でいい」
今日もクールな葵厘の言葉に胸が痛む。
葵華・・・ごめんねっ・・・!
琴李くんも・・・もう半年もいないんだっ・・・!
心珠の家にも行きたかったなぁ。
心珠を拾ってくれた人に挨拶したい。
・・・運がないなぁ私。
「みんな・・・ホームルームまで話できる?できれば空き教室で・・・」
「ん?なにかあるの?次にやりたいこと?」
今まで1番に私の情報を手に入れていた氷空くんが不思議そうに首をかしげる。
「ごめんね、こっちで・・・」
揃って首をかしげるみんなを連れて、少し離れた空き教室に。
「話ってなんだ・・・?」
なにか勘付いたのか、訝しげにこちらを見つめてくる心珠に苦笑を返す。
双子だからなんとなくわかってしまうのかもしれない。
「えっと・・・実は、昨日両親が急に帰ってきて・・・」
「・・・真空ちゃんの両親が?またなんで急に」
いつも穏やかに笑っている琴李くんが眉をひそめる。
「ん~、引っ越し中止みたいな~?」
眼鏡を外した葵厘がニコニコしながら訊いてきた。
「違うんだ・・・1週間後、引っ越すことになったの・・・」
「へ~・・・っ、は?」
葵厘がそれを聞いて器用に片方の眉を上げて見せる。
うん、器用でいいこった。
「予定より早く帰国したからもう引っ越しするんだって・・・ごめんね、蓮羅くん。せっかく素敵な提案してくれたのに・・・」
「そんなこと気にしてる場合じゃないでしょ!」
いつも語尾をのばす蓮羅くんが珍しく声を荒げる。
「みんな!わかってる?!」
「もちろん!」
「最終手段だね」
「・・・賛成だ」
「右に同じ~」
「住所特定は僕がやる!蒼鷺くんはあれやってね!」
ちょ、ちょっと待って!
「な、なんの話してるのっ?」
『最終手段』ってなに!
『住所特定』って誰の!
「もちろん真空ちゃんの親を脅すの!」
「言い方悪いよ、蓮羅・・・」
「そうだよ。宣戦布告、でしょ?」
「・・・賛成だ」
「右に同じ~」
心珠と葵厘はセリフ変わってないし!
「僕が真空ちゃんの住所を特定するから!日本1権力がある蒼鷺グループに協力してもらおう!僕たちのグループも全面協力!」
「だっ駄目だよ!あの、引っ越しに賛成っていうわけじゃないけどっ・・・でも私の心情1つで有名な5グループの権力を使うのは違うと思う!しかも・・・権力があるのはご両親でしょう?ご子息のみんなじゃないと思うの」
「それ、は・・・そうだけど・・・」
ウッと蓮羅くんが言葉に詰まると、代わりに出るように琴李くんが私を見て大きく頷いた。
えっと・・・私の考えに賛成してくれたってことかな・・・?
「大丈夫!僕たちのグループは真空にすごく感謝しているから権力くらい軽く振り回してくれるし!安心して、真空ちゃん!!」
「駄目だって・・・!っていうか感謝されるようなことしてないよね?!しかも全グループに?!会ったことないから、ご両親に!!」
「僕たちに近寄ってくる子はみんな権力が目当てだから。人間不信になりかけてた僕たちと仲良くしてくれた恩だよ」
「あ、それはよかった・・・それで、さっきのは・・・」
「安心して!今言った通りね、真空ちゃんは各グループからの信頼が絶対だから!さ、半年どころか一生ココに居られるようにしてあげるから!!」
「ちょっと待ってぇ・・・」
とりあえず、狂って変になったみんなはおかしいところに発想が行ってしまうようです。