久しぶりに、ビクビクしながら実家に帰る。
きょ、今日はさすがにいないよねっ・・・。
だって両親は今旅行中・・・。
                                                            
ゾクッと背中になにかが走る。
                                                                
嫌な予感がする。
                                                                   
そっとドアを開けて中に入ると、玄関にアノ靴が2足、置いてあった。
あの、人生で1番最悪な記憶ともいえるものがフラッシュバックする。
あぁ・・・どうしよう・・・。
・・・いや、きっといい知らせなはず。
『引っ越しがなくなった』とか『まだ海外巡りしたいから高校生卒業までここに滞在する』とかあわよくば『真空と友達関係のコトもあるだろうから引っ越しするのは親だけ』とかっ・・・。
そう、であってほしい・・・。
リビングにつながる扉を開けると、やっぱりいる。
「・・・お母さん、お父さん、帰国されていたのですね」
・・・私の1番嫌いな、2人が。
「あぁ、宿泊先で殺人があってね・・・気分が悪くなったから帰って来たんだ」
お父さんが驚くのも無理はない、と笑みを浮かべる。
「真空、引っ越しの準備はできているかしら?」
お母さんに訊かれて私は頷いた。
「はい、いつでも家を出れるくらいにはできています」
「そう、よかった。必要なものは引っ越し先で買えばいいものね。服と・・・雑貨かしら?」
「そうですね。困らない程度の服と文具などを用意してあります」
「引っ越すといっても別荘的なところだからねぇ・・・家具はあるし」
お母さんがそう言って、お父さんも同意するように頷く。
「そういえば・・・この家はどうなるのですか?」
「こっちもちゃんと私たちの家だから放置よ」
「では・・・制服などは置いて行っていいでしょうか?教材なども」
「えぇ、好きにして頂戴」
興味なさげにお母さんが話を終え、続きを促すようにお父さんを見た。
                                                                  
「実はね、もう帰ってきたから1週間後に引っ越そうと思って」
                                                                   
・・・え?
1週間後・・・?に、引っ越す・・?
半年後、の予定なのに?
「頑張れば学校の手続きは1週間でできるからね。もう引っ越すから本格的な準備を始めよう」
ウソ、でしょうっ・・・。
みんなに・・・っ、なんて言えばいいのか・・・わからないっ・・・。
「学園のほうにも連絡してあるからね。学園長は『向埜鳥さんのような優秀な人材が学園からいなくなってしまうのは誠に残念ですが・・・』って言ってたよ」
あぁ・・・学園にももう言っちゃったんだ・・・。
私には・・・どうしようもできない・・・。
ごめんね、みんな・・・半年、なんて・・・嘘だったみたいっ・・・。
「・・・そうですか。では準備しますね」
「あぁ、そうして。僕たちは・・・そうだね、最後に街でも巡るかい?」
「そうね。準備はできてるし、そうしましょう」
2人はそう言ってさっさと家を出て行った。
引っ越しを告げた、あの日のように。
私の意見を聞かず、勝手に引っ越しを決めて・・・今回もまた、勝手に引っ越しを早めた。
あーぁ・・・なんでこんな悪いコトばかり続くんだろう?
私の存在が・・・悪を寄せ付けちゃうのかな?
みんなごめんね・・・お泊り会しかできなかったけど・・・楽しかった。
最後に訊きたいことがあるの。
                                                                     
みんなにとって、私はこの短期間でどんな存在になった?
                                                                   
少しは・・・私との別れを、惜しんでくれる・・・?
                                                                      
                                                                    
・・・お泊り会で寝る時、唇に感じた柔らかいものはなに?