・・・どうするべき?
『好きだよ』って・・・氷空くんのことまっすぐ見て、言える?
『ごめんね』って・・・最初に謝るべきなのかな?
いや・・・違う。
氷空くんはきっと、謝罪なんて、求めてない。
                                                                 
・・・真空ちゃんへの気持ちが本物で、自分のライバルになる気はあるのかと。
                                                                                                                               
「氷空くん・・・僕は・・・」
「・・・蓮羅」
氷空くんの静かな声にさえぎられ、僕は俯いていた顔を上げた。
「遠慮も、気遣いも、いらない。蓮羅がホントに真空のコトが好きなら・・・ライバル宣言をさせてほしい」
ライバル・・・なんで想像した言葉がそのまま出ちゃうんだろう。
「・・・僕は、」
どう、しよう・・・。
いつも僕は余裕だ。
飄々としていて、なんでも簡単にこなして、どんな攻撃も躱す。
それが──僕の、生き方だった。
「僕は・・・っ」
言え、なくはないんだ・・・。
でも・・・氷空くんに嫌われたくない。
嫌われないようにするには・・・どうすればいい?
氷空くんが望むものはなんでも用意しよう。
氷空くんが望むことはなんでもやってあげよう。
だから・・・嫌われたくないっ・・・。
「蓮羅ぁ・・・」
少し呆れたように零された氷空くんの声に肩が震える。
これは・・・本能的な怯えだろうか。
「俺はさぁ・・・蓮羅の本心が知りたいんだよ。思ってること、俺に対しても、真空に対しても。なにを思って、どんな目で見つめてて・・・知りたいんだ。怒らないし、今の俺が望んでるのは・・・蓮羅の本心だ。気持ちなんだ」
なんで僕の考えていることが、わかってしまうんだろう。
Vistaの中では、心珠くんと1位2位を争うポーカーフェイス達人なのに。
氷空くんは・・・なんでわかってくれるんだろう。
僕の不安を・・・僕の気持ちを・・・僕の、欲している言葉を。
「僕は・・・真空ちゃんが、好きだ」
「・・・そう。わかった。じゃあ、これから俺と蓮羅はライバルだ」
どこか満足したような顔で笑みを浮かべた氷空くんは部屋を見まわした。
「ほかにライバルは—?いるよね?みんな・・・だよね?」
・・・だよね。
一番最初に真空ちゃんのことを好きになった氷空くんだ。
真空ちゃんに好意を寄せている人は、全員わかっているんだろう。
                                                                  
「じゃあまず琴李。ライバル宣言は?」
                                                                    
「・・・、・・・するよ。僕も、真空ちゃんのことは譲りたくない」
                                                                 
「よし。心珠?どうする?まだ真空とは双子でいる?」
                                                             
「・・・俺たちはもうただの血縁で家族じゃない。お前とはライバルだ」
                                                                     
「OK。蒼鷺は?」
                                                                    
「当たり前~。ってか転校初日からライバルだしぃ~」
                                                                     
「兄様・・・!私もライバル立候補いたします・・・!」
                                                                    
・・・ん?
この声・・・どっかで聞いたことあるような・・・。
じゃなくて、どっから?!
「兄様・・・!」
「あ、葵華!話は終わったんだね。ん~、真空と葵華が並ぶと女神と天使みたいだね~」
たしかに・・・ってなにちゃっかり口説いちゃってんの、蒼鷺くん。
シスコンは勝手にすればいいけど真空ちゃん勝手に連れ去るのは無しだからね。
「どうしたの~?なにそんな楽しそうな顔して」
・・・楽しそう?
妹ちゃんが?
無表情じゃん、いくら兄妹でもわかんなくない?
「KneeSamのゲームをしませんか?義姉様の思い出作りに!」
あ、思い出作りの話聞いたんだ。
・・・って、KneeSam?!
あの最新ゲーム会社?!
・・・そういえば蒼鷺グループの傘下の会社だったね、KneeSam。
「いーね、やろっか。じゃああの部屋行こ」
あの部屋?
KneeSamってVR使ってする異世界転生ゲームだったよね。
ゲームが大好きな僕はもちろん知っています。
50万円とほかのゲームと比べるとお高め。
それに超最新ですぐに売り切れちゃうからまだ買えてないんだよね。
蒼鷺くんに連れて行かれた部屋はとてつもなく広い。
学園の体育館くらいかな・・・?
それに床がベルトコンベアーみたいになっている。
なるほど・・・VRの世界で動いて壁に当たらないようにするためだね。
「設定とかの仕方はVR画面に出てくるから問題なし。操作とかも大してないから大丈夫だね。じゃあ本体にこれさして・・・はい、VRつけて~」
そっとVRを装着すると視界が真っ白になり、キーボードが出てきた。
目の前に、教室くらいの大きさがあるキーボードが。
『呼ばれたい名前を入れてください』
・・・キーボードを押さばいいんだね?
『レンラ』とカタカナで踏むと『レンラさん。これから始まる生活に必要最低限のものは拠点に置いておきます』
そのあと、画面が金色に光った。
『おめでとうございます、レンラさん。あなたは賢者の名を手に入れました』
賢者・・・ごく稀に出てくるあれね。
「なんか肩書ゲットした人いる~?」
遠くに蒼鷺くんの声がして僕は口を開いた。
「僕賢者~」
続いて心珠くんが声を上げる。
「俺は勇者だ」
そのあと真空ちゃんの声がした。
「私は・・・聖女に神子姫、女神・・・?あとは鑑定、テイマー、魔法開放全属性・・・?」
いや、凄すぎでしょ!
全部揃ってるじゃん!!
真空ちゃん最強!仲良くしよ?!
「ゲームスタート!」
蒼鷺くんの掛け声で画面いっぱいに草原が広がった。
わぁ・・・これが最初に着く無人島。
そしてちょっとした事件(?)は起こった。
5分後。
画面の上に表示がでる。
                                                                     
『シンクさんが伝説級の魔獣、フェンリルをテイムしました』
                                                                     
『シンクさんが伝説の古竜を治療し、テイムしました』
                                                                    
すごいな真空ちゃん!
続いて。
『シンジュさんが勇者パーティを組みました。メンバーは勇者、魔導士、賢者の弟子、元聖女』
                                                                 
『ソラさんが冒険者ギルドでBランク試験に合格しました』
                                                                     
『コトリさんが領主を失った街を回復させました』
                                                                        
『キリさんがワイバーンを配下に置き、空の旅に行きました』
                                                                      
そしてそして。
                                                                     
『キカさんがシンクさんと合流しました』
  
僕はまだ無人島で薪拾いだよ!
・・・すみません盛りました。
今、森の熊と仲良くなって手合わせをお願いしています。
これで勝ったら僕の属性・風の魔法を教えてもらう約束をしています。
                                                                      
30分後。
通知の絶えなかった画面上に驚くべき通知が来た。
                                                                 
『シンクさんが能力を買われ、王太子と婚約させられそうになったところで、従魔のフェンリルと古竜が王都を破滅させました』
                                                                  
まじで。      
〈side 蓮羅 END〉