〈side 葵華〉
私は道具です。
蒼鷺グループに貢献するための、道具に過ぎないのです。
そんなこと、蒼鷺家では常識ですよ。
それはホントに『昼の挨拶はこんちには』くらい、常識で。
私を1人の娘として扱ってくれる人はいませんでした。
・・・いえ、前言撤回します。
私を道具として扱わない人は1人だけ、おりました。
兄様です。
・・・まぁ、兄様も私のコトを『1人の娘』ではなく、『妹』として扱ってくれたっていうところなんですが。
なので私は急に両親から『葵華の婚約が決まった』と政略結婚宣言をされても驚きませんでした。
だってそういう運命だってわかっていたんですもの。
・・・嫌、でした。
大好きな、私を人として扱ってくれる兄様と離れるのは。
だって両親に『婚約相手の人の家に住んでもらいます』って言われましたから。
でも・・・私の政略結婚はきっと次期当主の兄様の役に立つ。
私の婚約先は蒼鷺グループの傘下ですものね。
信頼関係を深める・・・と言ったとこでしょうか。
相手の家は私のコトを丁寧にもてなしてくださいましたよ。
今回の帰省を進めて下さったお義父様には感謝ですから。
                                                                
家に帰るとお母様はとても怒っていらっしゃました。
『婚約破棄をされたのではないでしょうね?!』
それはもう、烈火のごとくという言葉が一番合うような。
『お相手のご両親が進めて下さったのです。「婚約から結婚まで行くと本家に帰るのも少なるでしょう」と』
『あら!そうなのですね、もう結婚の話が出ているのですか・・・さすが私の娘です』
そんなこと、思ってもいないくせに。
それを言うなら『さすが私がつくったロボットです』でしょうと。
なんど言いたくなったか。
そのあと機嫌がよくなったお母様に兄様の居場所を聞いてみると、私たちが近くにいることを拒むお母様がすんなり教えて下さりました。
そのお言葉の元、兄様のところに行ったのですが・・・。
そのお部屋には4人の御曹司様と、そして・・・。
とてもまぶしい女性がいたのです。
全身から放たれるオーラがすごくきらびやかで・・・御令嬢ではないそうですが、高価なブランドの洋服を着ていらっしゃるのでお金持ちのお嬢様でしょうか。
そして私から1つの推測が生まれました。
キーワードは次の3つ。
                                                             
1,女性嫌いの兄様が女性を連れてきている。
                                                                  
2,人間不信の兄様が素性を1番にさらしている。
                                                                   
3,美しく、距離が近い!
                                                             
・・・ときますと答えは1つですよね。
「兄様の彼女さんですね・・・!」
そう、兄様の彼女さん説です!
これが義姉様ができる感動・・・!
すばらしいですね、兄様!
有難うございます、義姉様!
そう言いたいのをこらえて私は兄様の彼女さん──もとい、真空様の手を握りました。
「真空様!お会いできて光栄の至り・・・!義姉様とお呼びしてもよろしいでしょうか・・・?!」
気が早すぎたでしょうか・・・。
・・・いえ、大丈夫です、きっと。