葵厘のご両親にご挨拶し、葵厘に案内されて寝室に行く。
「えっと・・・真空は別の部屋がいいか?男ばっかりだし・・・」
「ううん!みんなでお布団を並べて寝るのがね、夢なの!」
「そっか」
葵厘の提案に速攻で首を振り、笑顔で言う。
「じゃあなにをしようね・・・。あ」
うーんと悩んだ様子で腕を組んだ葵厘は、はっとなにか思いついたように顔を上げた。
「そうだ・・・俺の本当の姿、今のうちに言っとこうかな?」
口調が素の葵厘になり、私は変わらず笑顔でうなずく。
「葵厘が話してもいいと思っているなら、いいと思う!」
「・・・うん、ありがとう。・・・ちょっといい?」
広い部屋の中を歩き回っていたみんなに葵厘は声を掛けた。
「なになに?」
「どうしたの~?」
「・・・なんだ?」
「なにか言っておきたいことでも?」
氷空くん、蓮羅くん、心珠、琴李くんが振り向き、それぞれ葵厘に話しかけた。
「話しておきたいことがあるんだ」
「・・・ん?なんか・・・しゃべり方、違う?」
氷空くんが気が付き、首をかしげたのと同時に葵厘は眼鏡とウィッグを取り払った。
「・・・え?」
突如現れた綺麗な髪にみんなが目を見開く。
そりゃそうだよね・・・黒髪でも十分艶があったのに。
白に近い金髪が天使の輪を目立たせている。
「僕ね、なんかみんなが言う二重人格?らしくて。いつもの人格が偽り?で、今が本当?の人格。」
なんか疑問形な気もするけど葵厘はそう言い切る。
                                                               
「へぇ・・・その女っぽい性格で真空に近寄ってたんだ?」
                                                                    
・・・そ、氷空くんっ・・・?
なんでそんなに低い威圧的な声を・・・。
っていうかいつもの爽やかな王子様はどこに行ったの・・・?!
どこからそんな閻魔様みたいな声出してるの?!
・・・と、なんでか『なぜ怒っているか』ではなく、『どこからそんな声を出しているのか』が気になるという・・・。
私もちょっとおかしくなったのかなぁ?
「うん、そうだね。否定はしないよ。真空は急に素性をさらした僕を受け止めてくれたからね~」
あはは~と笑う葵厘に、琴李くんが恐る恐る声を掛けた。
「受け止めたって・・・まさかだけど物理的に・・・?」
・・・物理的・・・?
と言いますと?
「物理的に・・・?あぁ、抱き留めてくれた、的な?」
「・・・受け止めてもらったの・・・?」
「いやいや~、まぁ、抱きしめてはもらった・・・かな?いや、もらってないか~・・・?う~ん、もっとすごいことしたから忘れちゃった~」
「・・・すごいこと?俺の妹になにをした」
凄むように葵厘を睨んだ心珠は私をわざわざ『俺の妹』と言った。
う~ん・・・妹って言われるとなんかくすぐったい。
「妹~・・・?あぁ、なんかそんな感じするね!名前も雰囲気も似てるし~・・・。苗字が違うのは~・・・両親の離婚再婚関係かな~・・・?」
す、するどい・・・!
さすが葵厘・・・!と思わず言いたくなりそうなのをこらえて
「よくわかったね」
と笑みを送る。
「あはは、ありがと~。なんかそんな事情を抱えてる感じで~・・・」
ちょっと最後の方の声が小さくなったのは私たちのコト(真空と心珠)を気遣ってくれたのかな?
「もう過去のコト!気なんて遣わなくていいよ!さ、次はなにしよっか~?」
「・・・そうだね。じゃあ次は・・・」
その時、だったんだ。
ガラっと障子を開け、飛び出してきたのは。
「兄様・・・!お元気そうでよかったです・・・!!」
葵厘にそっくりの、可愛らしい女の子。
「・・・葵華・・・!帰って来たの~。あいつは変なことしてこない~?」
・・・妹さん、かな?
あいつって誰だろう・・・。
「えぇ、大丈夫です。ご両親も優しくしてくださってます。今日は久しぶりに帰省したらどうだとお義父さまが仰ってくださって」
「そっか~、よかった。安心だな~・・・」
「・・・それはそうとお兄様?そちらのお方は?」
「あ~、今日ちょうどうちに泊まるんだよ~。えっと、こっちから鷹御グループの御曹司・氷空、大鷲グループの御曹司・蓮羅、雀矢グループの御曹司・心珠、雉球グループの御曹司・琴李」
「みなさん御曹司様なのですね・・・。兄様のライバルですか・・・ふぅん・・・。そちらの女性は・・・っ?!」
妹さん──おそらく葵華さん──は私を見て、なぜか息を詰まらせた。
「兄様・・・!こちらのお方を紹介してください・・・!」
「あ、うん・・・こっちは向埜鳥真空。僕が一番最初に素性を出した人だよ」
「美しいお方・・・なんて儚いの・・・!それに兄様の信頼も寄せられてるのですね・・・!!わかりました!」
葵華さんはポンッと手を打ってとびきりの微笑みを浮かべた。
「兄様の彼女さんですね・・・!恋愛結婚とは羨ましいものです・・・!私は政略結婚ですので・・・」