〈side 葵厘〉
・・・『お泊り会』と言うものをすることになった。
しかも、俺の家で。
                                                                
真空から半年後に引っ越すと聞かされた時には驚いた。
だって急に・・・しかも聞けば、親がココに飽きたからだと言っている。
ふざけるなよ・・・俺から・・・どれだけのものを奪えば気が済むんだ・・・!
                                                                  
俺には妹がいた。
葵華(きか)という名の、可愛い妹だ。
そして俺は──世に言う、重度のシスコンだった。
葵華は儚い感じのする美少女で、冷たかった。
・・・が、俺だけには心を開いてくれたんだ。
嬉しくて嬉しくて・・・俺は葵華を日々構い倒していた。
普段無表情の葵華も少しずつ笑みを浮かべるようになり・・・ついに花開くような、可憐な美少女になったのだ。
自慢だった。
権力を手にし、自分と家の継続のためにだけ動く両親と葵華は違うと。
確信していたし、それは事実だった。
でも俺が葵華と仲を深めるたびに親は嫌なものを見るように俺たちを見て・・・。
親にとって俺たちはこうだと。
ずっと教わってきた。
【葵厘は蒼鷺家を継ぐ道具】
【葵華は傘下との信頼関係を深めるための道具】
・・・まぁ、俺のほうはわかるだろう。
葵華は・・・簡単に言うと、政略結婚を強制される、というところか。
このことで他家に嫁ぐと決まり、去年、葵華はその家に住むことになった。
俺は人生のすべてを奪われたと感じた。
そんなときに親は引っ越しをして俺と葵華を遠ざけようとする。
俺にはもう、なにもない。
そう感じた時だったんだ。
真空と出会ったのは。
嬉しかった。
こいつなら・・・俺を受け入れてくれるんじゃないのかって思える相手が転校先にいて。
                                                                    
そして──話は冒頭に戻る。
                                                               
また俺は奪われるのか。
別に俺は・・・真空を、葵華の代わりとして接していたわけではない。
だから悲しいし、悔しいんだ。
俺は──真空に恋心を抱いているんだから。