〈side 葵厘〉
僕のことを信頼してくれているのか、突然予定変更してもついてきてくれた真空には感謝だね。
とりあえず僕の予定通り、自分の家へ。
「ここ・・・ずごい、大きなお屋敷だね」
自分の家に行くことは僕の予定で決定事項だから表札は隠してもらっている。
「うん、入って入って」
いかにも観光みたいな感じで中に入り、廊下を歩く。
今は眼鏡を外している状態。
「わぁ、絵画だっ・・・!これは・・・茶道の絵かな?この人のお着物、きれいだねっ・・・」
廊下に飾ってある絵画や壺を見てニコニコしている真空。
「うん、たしかにこのお着物、きれい。でも・・・真空のほうがきれいだよ」
「・・・っ、そ、そっか・・・っ、ありがとう・・・」
・・・あれ?照れている?
かわいい・・・なにこの可愛い生き物・・・。
「はい、ここね」
障子を開け、自室に入る。
「葵厘はくわしいね。来たことがあるの?」
「うん。・・・ここに住んでるからね」
「・・・ん?ごめん、『うん』しか聞こえなかった。もういっかい言ってくれる?」
「いや、いいよ。そんな大したことじゃないから」
「・・・?そっか」
どこか腑に落ちない、といったような顔をしている真空を自室の奥の部屋に入れた。
5畳の小さな部屋。
奥の部屋の一番奥にある椅子に真空を座らせる。
ふかふかになっている椅子に、真空は簡単に沈んでしまった。
「・・・ふふ」
驚いている真空と、それを笑う僕。
さぁ・・・これからだね。
今、真空は逃げられないようになっている。
床と天井、左右と後ろの壁は、ショベルカーで頑張って壊せる硬さの壁。
前は障子だけど僕がいる。
真空はそんな危険な状況に自分が陥っていることに気づいていないのか、少し首をかしげるばかり。
「ねぇ・・・真空はさ」
「・・・うん?」
「・・・鷹御 氷空と一緒に住んでいるんだね」
「うん、そう・・・っ、え?」
なんで、とでも言いたそうな顔で見つめてくる真空にニコッと微笑む。
「ちょーっと僕の部下が頑張ってくれてね」
「葵厘の部下が・・・?ってことは・・・」
ハッとしたように僕を見つめながら大きく目を見開いた真空。
・・・目、落ちるよ?
「その人たちに尾行させてたの・・・・?」
「え?違うけど・・・」
「え?だって最近ずっとうしろから視線と気配が・・・」
「・・・それ、フツーのストーカーだね」
まさか鷹御と登下校してストーカーがでるなんてなぁ・・・。
「・・・で、尾行じゃないならどうして・・・?」
・・・え、なんでそんなに冷静なの?
「これね」
真空の首に手を伸ばしてネックレスを掬い取る。
「この板ありでしょ?この中にGPSが入ってるんだ~」
「・・・G、P、S」
「うん。このネックレスね、純金なんだけど・・・だから部下たちが加工頑張ってくれたの」
「そっか・・・」
「・・・冷静だねぇ。でね、今日から真空をここに住まわそうと思って!」
「ん?ここって・・・」
「僕の家!」
「あ、なるほど・・・」
そっか、家ってこと隠してたから。
・・・いや、聞かれなかっただけであまり隠してはないんだけど。
「ね、住んでくれるでしょう?僕ね、真空を僕のものにしたいんだ。あ!もちろん、僕は真空のものになるよ!だから・・・まぁ、言葉悪いけど監禁、かなぁ?」
これでどんな反応されるのかはわかっている。
『最低!』とか『犯罪者!』とか・・・。
GPSが犯罪なのかはわからないけど。
いや、スマホについてたりするもんね、ウン。
「ねぇ、お泊りじゃダメかな?」
「・・・は?」
そんなことを返されるとは思わず、聞き返す。
「監禁、は多分犯罪?だからお泊りは?私も友達とお泊り会するの、夢だったんだ」
「・・・い、いや、僕は」
「お泊りできるんだよ?だったら監禁なんて汚い手は使わずに楽しくお泊りしよう!」
「・・・なんで」
「え?だって私も夢──」
「僕は真空のこと監禁しようとしたんだよ?」
「でもまだ未遂でしょ?ならいいの。さ、これでお話はおしまい!ね、まだ時間あるから映画見に行かない?」
真空は・・・話題を変えようとしてくれている。
「・・・うん。『明日の私へ』・・・だっけ。見にいこっか。お泊りについてはまた今度話そう」
「わかった!そうと決まればレッツゴ―!」
映画が楽しみだったのか、テンション高めな真空に手を引かれ、僕は眼鏡を付けて家を出た。