「氷空くんママ、行ってきます」
今日は休日。
友達・・・葵厘と映画館に行く。
止められるかもしれないから氷空くんには『仲がいい女の子と映画を見に行くね』と言ってきた。
集合場所にしてある駅に行くと外壁にもたれかかりながらスマホを見る葵厘がいた。
顔が整っていることを自覚しているのか、ふかく帽子をがぶっている。
それでも全身からあふれ出すオーラが隠し切れないのか、まわりにはオシャレをした女の子がたくさん。
そっか、眼鏡をかけているときはクール男子な感じだもんね。
「葵厘、お待たせ」
声を掛けながら葵厘に近づく。
するとまわりにいた女の子が一瞬で振り返り、睨んできたけど私の顔を見てすぐに道を開けてくれた。
「・・・真空。行こう」
「うん。・・・あ、どれくらい待ってた?」
「んー・・・?今さっき」
今さっきって・・・そんな一瞬であんなに女の子が集まてくる?
「ホントは?」
「今さっきだって」
「ウソでしょ」
そっと葵厘の指に自分の指を絡めるとすごく冷たかった。
冷え性とかそんなんじゃなくて、普通に冷えてる感じの。
例えるならあれ。
スーパーの、アイスがたくさん入ってるケースの中に手を突っ込んで少し経ったときみたいな。
・・・ちょっとわかりにくくなっちゃった?
「・・・っ?」
「ん?」
「なに、してんの・・・」
「なにって・・・体温たしかめて・・・ほら、こんなに冷たくなってるよ」
「・・・」
「これ、30分は待ってたね?」
「・・・」
「・・・」
無言・・・答えたくないんだろうか、図星だから。
触れた葵厘の指先は驚くほど冷たくて。
下手したら30分どころか1時間くらい待ってたんじゃない・・・?!
「こんなに早くから待たなくていいんだよ・・・?葵厘が体調崩したら私が悲しくなっちゃうし」
「っ・・・またそんなこと軽々しく言う・・・。少しは危機感持ってよ・・・」
口調は少しだけホントの葵厘に戻っている。
「危機感・・・?持ってるよ?変な人についていかないとか!たとえどんな魅力的なお菓子をぶら下げられてもね!!」
「それ、当たり前・・・。っていうかもうやられてるよ?」
「え・・・?」
・・・と、言うのは?
もう私は危機に陥っているってこと・・・?
「ごめん・・・予定変更」
・・・映画館より行きたいところでもあるのかな?
「いいよ」
正直、今日見る予定だった【映画 明日の私へ】も気になる。
なんかね、アイドルの女の子が病気になって、自分がアイドルであることも、もちろんファンのことも忘れちゃう話。
でもアイドルの【ヨル】は毎回ライブやサイン会、握手会に通ってくれたファンの【フキ】っていうイケメンくんのことだけは覚えていて、フキの【アイドルを独占したい】という思いから始まるラブストーリーなんだ。
「これから毎日でもえいがならみせてあげるから」
・・・うん?
どういうこと?
まぁ、いっか。
葵厘は私を危険なところに連れて行くことはないと思うし、安心してついていけばいいと思う。
ここでコッソリ逃げるほうが危険だし、なにより葵厘との友好関係も崩れてしまう。

そう思ってついていったのが間違いだったのかもしれない──。