朝起きると最初に目に入るのはサイドテーブルに置いてあるデジタル時計。
っていうか人って起きたとき上向いてる人少ないと思うんだけど・・・私がそう感じているだけかな?
デジタル時計に書いてある数字は《AM 6:00》。
「んふぁ・・・」
あくびが出る。
そんな自分に驚いた。
私は普段、あくびをしない。
1分も乱れた生活をしていないから。
一日もスケジュールは決まっている、1分単位で。
だからそのスケジュールがズレたとしても長くて30秒。
規則正しい生活の部類に入っていると思うから夜は眠たくなくても寝るし、朝は全然眠たくない。
○○分で朝ご飯を食べ、○○分後に鞄の中身を確認する。
○○分で確認を終えて○○分にトイレへ行く。
・・・みたいな。
親が放任主義になってからこんな生活をするようになった。
ちゃんと計算したんだよ。
この時間にこれをするのが一番効率が良くて、この分だけ時間が余る・・・って。
親が過保護だった時は早い時間から寝かせられ、朝はギリギリまで起こしてもらえなかった。
まぁ、自分で起きないのも悪いんだけど。
珍しい眠気が飛んでいくよう、勢いよく身を起こす。
なんでこんなに眠いんだろう・・・。
その理由はサイドテーブルを見て分かった。
──真珠のブレスレット。
キラリ、と輝くそれが存在を主張している。
そっか・・・昨日と今日の夜、夜通しで『夜デート』とかいう聞いたこともないことを氷空くんとしたんだっけ。
【夜×デート】そのままだから要するに夜にするデートってことだろうけど。
そのブレスレットを手に取り、スルリと撫でる。
そのまま右手首へもっていき、はめた。
大きさがあってる・・・どこでこの大きさを知ったんだろう?
私は同い年の女の子と比べて腕も足も首も細い。
理由か簡単、栄養不足だ。
親が放任主義になって少し経ったときは栄養バランスとか分からなくて・・・。
気付いたら身体測定の体重の結果が5キロ以上へっていた。
先生には心配されたけど『ダイエットです!』と笑って誤魔化していた、あはは・・・。
先生、嘘ついてゴメンね・・・。
着替えて洗面所で顔を洗い、歯を磨く。
その次にドレッサーで服を整え、軽くメイクをする。
本当に、本当にほんの少しだけ。
部屋を出てリビングに行くとちょうど氷空くんも階段の扉から出てきた。
「おはよう、氷空くん」
「おはよ、真空。はやいね?」
「そう?氷空くんもだけど・・・」
「あはは、休日だからってこと。俺はあまり遅くまで寝ていられない体質だからね」
そうなんだ・・・遅くまで寝ていられない体質・・・。
大変そう、ではなさそう・・・。
でも『もうちょっと寝たい・・・』っていうのはないのかな?
それを聞いてみると。
「うーん、どちらかと言うと寝られなくて起きちゃう、みたいな?だからできる限り早く起きたいし、遅く寝たい」
遅寝早起き、だっ・・・。
なんだか理想的な体質だなぁ・・・。
私、最近漢詩にハマっていて、よく図書館で借りてくるんだ。
それで氷空くんの体質だったら夜遅くまで漢詩を読めて朝早くおきれるんだ・・・!
「氷空くんは・・・その体質に、不満とかはない?」
思わず首をかしげて聞いてしまう。
すると氷空くんはなにか一瞬熱っぽい視線で思わず零れたといった感じで微笑んだかと思うとすぐにいつもの様子に戻った。
「そうだね・・・俺に悪いことがないからね。睡眠欲もないし」
「そっか・・・氷空くんがいいならいいの」
「あ、心配してくれてるの?ありがとね」
よしよし、と幼い子供にするようにナデナデされる。
「ふふっ」
なんか恥ずかしい気持ちもあるけどそれよりも嬉しい気持ちの方が勝った。
いつぶりだろう・・・頭を撫でられたのは。
小さいころはよく。
                                                                               
『いい子ね、真空ちゃんは~!そんな真空ちゃんのママになれて嬉しいわ~!』
                                                             
なんて言われたもんだ。
そうだ、お母さんは勉強を教える時はすごく厳しかったけどそれ以外は甘々だったっけ。
私は『お母さん』と呼んでいるけどお母さんは自分のことを『ママ』と呼んでいた。
お父さんはお母さんのことを『ハニー』とか呼んでいたような。
反対にお母さんはお父さんのことを『あなた』と呼んでいた。
・・・これがよく言う《バカップル》か。
「さ、じゃあ朝ご飯食べようか?」
「うん!」
今はとっても、とーっても素敵な日常だった。
偽りとでもいえる実の家族じゃなくて。
暖かくて、とにかく安心してリラックスできる。
こんな日が続けばいいな──・・・なんて、思ってしまう自分がいる。