「ほら、夜に男女がやることと言えば・・・?」
「夜に男女がやること・・・?
この時、私の頭にはある公式が浮かんだ。
《夜×寝る=おやすみ×男女=キス(?)》
・・・といういわゆる《おやすみのチュー》だ。
それをしてほしい・・・いや、したいのかな?
もしかして帰国子女だったりして。
キスは挨拶・・・的な?
「やってくれる?」
「えっと・・・うん」
やってくれる・・・ってことは私がするのかな?
頬?おでこ?唇はないと思うから・・・瞼とか?それか首か。
「やった。じゃあ動きやすい服に着替えてきて」
「・・・うん?」
動きやすい服・・・?
えっと・・・私が想像したのは違うのかな?
とりあえず言われた通り、部屋に戻って動きやすい服に着替える。
夜だし、少し寒いからカーディガンも羽織って氷空くんがいるリビングに向かった。
「・・・」
無言で私を見つめ、ニコニコしている氷空くん。
な、なんでこんなに見られてるんだろう・・・。
もしかして・・・へ、変とかかなっ・・・。
恥ずかしい・・・。
「行こっか」
氷空くんが手を差し出してくる。
「夜デート!」
私は『自分の想像と違ったな・・・』と少し残念に思いながらその手を取った。
・・・え・・・?
少し・・・残念、って・・・。
い、いやいや、違う違う。
残念なんかじゃなかった!
ウン、そうだ、なにも残念じゃない。
勝手に帰国子女だって思った私が間違っていただけね、そうそう!!
ありえないほど動揺してしまう。
そんな自分が嫌になり、心の中で自己完結して氷空くんに連れて行かれるままお屋敷の一番奥の部屋──温室に入った。
えっと・・・なにをするんだろう・・・。
温室には見たことある植物から珍しくてとても価値のある植物までいろいろ。
私は植物が好きだから度々入らせてもらっている。
ふふ・・・今日は時間がなくては入れなかったけど見れてよかったっ・・・。
みんな元気そう・・・いいなぁ・・・生まれ変わったら植物になりたい。
そんなこと感がる時間が意外と好きなんだけど・・・。
その時、小さくカーテンが揺れる。
そちらに顔を向けると窓が開いていた。
「えっ?」
その窓から華麗な仕草で外に出た氷空くん。
「なに、やってるの・・・?」
「ドアから出たら見つかるかもしれないからね。ほら、真空もおいで」
「いや、おいでって言われてもね・・・」
「・・・それって・・・俺とデート、したくないってこと?」
もうっ・・・そんな顔しないでよぉ・・・。
断れないの知ってるんだろうけど。
仕方なく窓枠に脚をかけ、飛び降りる。
「きれいな降り方だね・・・」
「誉め言葉・・・?ありがとう」
「いや・・・それより!」
氷空くんが私の肩に手を置いて背中を覗き込んでくる。
「あー・・・『おいで』なんて言わなきゃよかった。俺がやってげるべきだったな・・・心臓止まったよ。ケガしてない?窓で擦ったりとか。大丈夫?痛いところとかない?」
「え、あ、ないよ。そんなに心配しなくても・・・」
「心配はするよ。だって一応、地面から窓まで1メートルちょっとあるし」
気を付けてるのかあまり体には触ってこないけどそのかわり口の心配がものすごく多い。
「え、肘とが大丈夫?膝も、あ!顔は大丈夫?顔に傷ついてたら俺自殺するよ」
「い、言いすぎだよっ・・・!そんな簡単に自殺とか言わないでっ・・・!!」
命は大切にしなきゃだよ・・・?
「あー、俺今めっちゃ後悔してる」
こ、後悔・・・?
なにをそんなに・・・あっ。
まだ『私のケガが・・・』みたいなこと言ってるのかな・・・?
「俺がやってあげてれば抱っことかできたんだよね・・・?距離も近くなっただろうし・・・うわ、過去に戻りたい」
「なに言ってるの・・・?」
大丈夫・・・?
なんか・・・ブツブツ言っちゃうビョーキ・・・とか・・・?
た、大変だっ・・・。
「そ、氷空くん・・・大丈夫?」
「え、なにが・・・?あ、大丈夫じゃない。慰めて」
「・・・なにか悲しいことであったの?」
「うん、めっちゃ悔しい。自分の判断を恨む」
「えぇっ・・・そんなこと言わないで・・・!よ、よしよし、悔しかったね」
そっと氷空くんの頭をなでるとふわふわする。
なにこれ・・・髪の毛?
すごい・・・なんか、柔らかくて・・・ふわふわの毛糸を触っているみたい・・・!
癖になる・・・!
いいなぁ・・・羨ましい。
思わず頬が緩んでしまった。
「真空のこんな可愛い顔見れるなら髪の毛と母さんに感謝だな」
本当に嬉しそうに微笑む氷空くんに私も笑い返す。
ご両親に感謝するのはいいことだと思うよっ・・・。