すると

「ん」

 突然、視界の端に佐々木くんの左手が出てきた。

「ん」

 無愛想にもう一度佐々木くんが言う。

 これ捨ててくれるの? と思って、私が割りばしを差しだそうとしたら「違う」と不機嫌そうな瞳に言われた。

 そこでやっと気付く。

「あ、ちょっと待ってて」

 近くにあったゴミ箱にわたがしの割りばしを捨てて、私は佐々木くんのもとに戻ってきた。

「おねがい、します」

 佐々木くんの隣に座り直して、私は佐々木くんに右手を差し出した。

 気だるげな瞳が静かに私の右手を左手で握り返す。

 瞬間、うっすらと地面に黒いものが見え始めた。

 提灯の明かりの下で、私を見上げるまん丸おめめ。

 ハチだ……!

「ハチ! 戻ってきてくれたの?」

 佐々木くんと手をつないだまま、私は片手でハチを抱き上げ、自分の膝に乗せた。

「よかった、消えちゃったかと思った」

 今度は嬉しさで泣きそうになりながらハチの頭を静かに撫でる。

 やっぱり触れてるけど、感覚はない。

 でも、私、まだハチと一緒にいたいよ。

 いつもは見えなくたって。

「ハチは君の守護霊だから」

 優しい口調で佐々木くんがやっと言葉を発してくれたときだった。