「詩……」

 瞬間、アキさんがぼそりと呟く。

 ああ、見えたんだなって思った。

「詩……、うたぁ……っ、ごめんね……、アタシ、ごめん……っ」

 佐々木くんと手を繋いだまま、アキさんは詩ちゃんの前で泣き崩れた。

 詩ちゃんが「ううん」って言うみたいに、微笑みながら首を横に振る。

 それを見て、アキさんは片腕で詩ちゃんのことを抱きしめた。

「詩、ごめんね……、大好きよ。いまだって、ずっと……」

 顔を上げて、アキさんが詩ちゃんのことを見る。

 詩ちゃんの唇が「私も」と動いたように見えた。

「ちゃんとつれて帰ってあげるから」

 詩ちゃんから身体を離して、片手で涙を拭って、アキさんが決心した瞳で言った。

 うん、って静かに詩ちゃんが頷く。

 そして、詩ちゃんは佐々木くんを見た。

「ありがとう、詩。君のおかげで僕は……」

 佐々木くんが言うと、にこやかな表情で詩ちゃんが首を横に振った。

 まるでぜんぶわかってる、って言ってるみたいだった。

「そうか」

 ふっと、また佐々木くんが笑う。

 すると、詩ちゃんの姿がすこしずつ薄くなっていって、最後にはすぅっと消えてしまった。

「ありがとう……」

 消える瞬間、私には音になって届かなかったけれど、詩ちゃんの唇がそう動いたように見えた。

 私にも言ってくれたみたい。

「二人とも、ごめんなさい。ありがとう。ここから先は大人がやることだから」

 立ち上がったアキさんの瞳には、もう迷いみたいなものはなかった。

 そして、このあと、結構大変だった。

 佐々木くんが大ごとにしないほうがいい、とか言って、警察を呼んだあとアキさんに途中まで送ってもらって、二人で肝試しに戻ったら、先生たちがパニックになってて、紗菜ちゃんは「二人で神隠しにでもあったのかと思った」とかのんきなこと言ってて、私、苦笑いしちゃった。

 それに先生たちには怒られるし、ママとパパには連絡いってて帰ったらすごい心配されたし、佐々木くんと言い訳合わせるの大変だったし、でも……、私、佐々木くんの力になれたんだよね?

 ハチ、私、強くなれたよね?