そこには詩ちゃんの髪ゴムがあったから、掴んだって言ったほうが正しいかもだけど。

「なんだ? 君も僕を止めるのか?」

 佐々木くんが怖い顔で言う。

 でもね、違うんだ。

「ううん、私も行く」
「そうか。ちょっと待ってくれ。――これでいい」

 私が首を横に振ると、佐々木くんは詩ちゃんの髪ゴムを自分の右手首に通して、私とちゃんと手をつなぎ直してくれた。

「優希ちゃん、あなたは戻りなさい」
「いま、一人で帰したほうが危ない」
「……」

 私を帰らそうとしたけど、佐々木くんの言うことが正しかったからか、アキさんは黙ってしまった。

 そんなときだった。

「やっぱり君の前にだけは現れるんだな」

 佐々木くんがそう言ったのは。

「詩ちゃん……」

 私の目にも見えた。

 まるで私たちを案内するみたいに、水色のワンピースを着たポニーテールの女の子、詩ちゃんが現れて、前を歩いていく。

 あとを追う前に佐々木くんが私に懐中電灯を渡してきて、アキさんに右手を差し出したけれど、アキさんは静かに首を左右に振った。

 詩ちゃんと会うのが怖いみたい。

 ただ、ずっと私たちの後ろにはついてきてくれていたけど。