「でも、アタシ、それがうっとうしくて」

 そう言いながらアキさんの両手が動いていく。

「アタシは可愛くなれないし、お兄ちゃん、お兄ちゃんってうるさくって」

 アキさんの両手が自分の両耳をふさぎ、まるでぜんぶから逃げたいみたいに、アキさんは両目も閉じてしまった。

 そして、そのままで続ける。

「だから、ちょっと困ればいいと思って、一緒に森に入って、アタシは早歩きで歩いたの。そしたら、詩、行方不明になっちゃって……」

 わなわなと震えるアキさんの唇。

 パニックを抑えるときみたいに、大きく息を吸って、吐いて、アキさんはゆっくりと目を開けて

「警察の人たちとボランティアの人たちとみんなで捜した、必死に捜したんだけど、見つかったのはその髪ゴムだけ。詩はいまも見つかってないの」

 佐々木くんの手元を指差し、泣きそうな瞳で言った。
 
 詩ちゃんは、まだこの森の中に?

 でも、もう……。

「僕が捜しに行く」

 佐々木くんがアキさんの横を通り過ぎようとする。

「待って、行かないで。帰りましょう?」
「秋兎おじさんが来なくたって僕は行く。僕には見つけられる」

 アキさんは佐々木くんの腕を掴もうとしたけれど、佐々木くんはするりとそれをかわした。

「蒼空……!」
「詩が待ってるんだ。僕にはわかる」

 懐中電灯で足下を照らしながら、佐々木くんがどんどん進んでいってしまう。

「佐々木くんっ」

 走って追いかけて、私は佐々木くんの左手を握った。