「おーい! おーい!」

 私にはなにも見えないのに、おじさんの声だけが聞こえる。

 怖い。怖い怖い! どうなってるの?

「僕は、お前に、会いに、きたんじゃない……!」

 出しづらそうな声で佐々木くんが叫んだ。

 でも、それでも、ほんとうに動けないみたい。

「佐々木くんっ」

 怖いけど、パニックだけど、私はしゃがんで佐々木くんの左手を握った。

「おーい! おーい!」

 声が聞こえる。

 ずっと聞こえてた声、近い。

 それから少しずつ、ぼんやりと姿が見えてきた。

 私たちよりも小さな子供みたいなのに、声はおじさんみたい。

 あとね、佐々木くんが、私にこの幽霊の姿を見せてくれなかった理由がわかった。

 ……赤いから。

 幼稚園のとき、ママに読んでもらった絵本に出てくる真っ赤な鬼みたい。

 ずるずると足を引きずりながら近付いてくる。

「最初は、普通の、子供だったんだ……」

 佐々木くんが力なく言う。

 たぶん、昨日の夜、佐々木くんの眠りをジャマしてるときは赤くなかったんだ。

「なにも、できない、のに、僕の中に、入れば、人になれる……と思ってる」

 佐々木くんの目がジッと見つめる先、赤い子はどんどん近付いて、もう手を伸ばせば届きそうな距離まで来てしまった。

「こっちに来ないで!」

 怖くて、私は赤い子の顔を見ることができなくて、でも、佐々木くんを助けたくて、私は叫んだ。

 けれど、私の声は赤い子には届いていないみたい。

「い゛っじょに行ごう゛」

 赤い子は佐々木くんの右手を強く掴んだ。