「みんなに気付かれる前に戻らないとな……」

 先生たちにバレて大騒ぎになるのを佐々木くんは心配してるみたい。

 でも、案外簡単に落とし物は見つかった。

「あった」

 すこし先に駆けていって、佐々木くんがなにかを地面から拾い上げる。

 佐々木くんの落とし物は、あるはずのない道に落ちていた。

「ねぇ、佐々木くん、それ……」

 私たちがここを通るって知ってたんじゃなくて、いま、置かれたんだよね?

「おーい! おーい!」

 私が気が付いてしまった瞬間、前のほうから、知らないおじさんの声が聞こえてきた。

 誰かが私たちに呼びかけてるみたい。

 でも……、姿が見えない。

「佐々木くん……!」

 怖くなって、私は佐々木くんの近くに駆け寄った。

「それ……」

 佐々木くんの手にあるものが目に入ったけど、いまはそれどころじゃないかも。

「おーい! おーい!」

 ちょっとずつ声が近付いてきている気がして、私はビクッと身体を震わせた。

「君にも聞こえるのか?」

 私の反応に気が付いて、佐々木くんが驚いた顔をする。

「う、うん」

 すごくハッキリ聞こえるよ?

「早く戻ったほうがいいな」

 佐々木くんは口ではそう言ったのに、急に私の横でガクンと地面に膝をついた。

「え?」

 思わず、私の視線がゆっくりと佐々木くんのほうに向く。

「動け、ない……」

 佐々木くんは真正面を向いたまま固まってしまったみたいに言葉をこぼした。