「たぶん、あの幽霊のしわざだ」

 慌てず、落ち着いた様子で佐々木くんが言う。

 なんとなく静かに怒ってるような気がした。

 さっきまで、怖がってたのに。

「幽霊って、なんでもできるの?」

 身体がないのに物を動かしたり、人を傷付けたり……。

 紗菜ちゃんが、生き物観察に夢中になっているのを確認して、私は佐々木くんに問い掛けた。

「いいや、あれはとても強いから、僕をおびき出そうしてる」
「お、おびき出す、って罠ってこと? まさか、わかってて探しに行かないよね?」

 私だって「おびき出す」って言葉くらい知ってる。

 その幽霊が佐々木くんをおびき出そうとしてる理由はわからないけど。

 佐々木くん、さっきまであんなに怖がってたんだもん、危ないってことだよね?

「いいや、行く」

 わかってるなら行かなきゃいいのに、佐々木くんはハッキリと私に言った。

「待って、危ないよ。落とし物って、なに? どうしても必要なもの?」

 先生たちが見てないかを確認して、佐々木くんが川の横の茂みに入って行こうとするから、私は彼を引き止めた。

「ああ、肌身離さず持っていたくて、ぜったいになくしてはいけないものだ」

 そんなに大事なものを……。

「じゃあ、私も行くよ」

 真剣な瞳が私を振り切って先に進んでいってしまうから、私は彼を追った。

「君は来ないほうがいい」
「ううん、一人じゃ危ないよ」

 途中で佐々木くんに言われたけれど、私はみんなのところには戻らなかった。

 ぜったい、一人より二人のほうがいい。