「えっと、長野県のここ」

 宿題を入れてきたピンクのフリルの手提げから私はサマーキャンプのしおりを取り出して、佐々木くんに見せた。

 冊子になってて、写真とかも載ってるんだ。

「ね? 楽しそうでしょ? 二泊三日で短いんだけど――」
「僕も行く」
「え?」

 私は自分の耳がおかしくなったのかと思った。

 いまのって私の聞き間違い?

 佐々木くん、いま、なんて言った?

「僕も行く」

 私はなにも言ってないのに、佐々木くんは真顔で繰り返した。

 間違ってない。

 ちゃんと言ってる、行くって言ってる。

「でも、きっと手続きとかあるよ? お金とか」

 いまからで間に合うのだろうか、と子供ながらに心配になる。

 だって、私のママは、あれ準備して、これ準備して、ってワタワタしてたもん。

「それはなんとかする」
「なんとかするって……、アキさんに言わないの?」

 佐々木くんはへんに知恵があるから、本当になんとかしそうだけど、この感じ、アキさんに言わないつもりなのかも。

「秋兎おじさんにはバレたくない」

 拗ねたみたいに佐々木くんが言う。

「いやいや、バレるよ。三日間家にいなくなるんだから」

 佐々木くんからサマーキャンプのしおりを取り返しながら、私は慌てた。

 なのに

「行き先がバレなきゃいい。行ってしまえばこっちのもんだ」

 そう言いながら、佐々木くんはまたちょっと悪い子の顔してる。

 アキさん、佐々木くんが突然消えた、っておまわりさんに相談するかも。

 どうか佐々木くんがおまわりさんのお世話にだけはなりませんように、と私は願った。