「君に話したいことがある」

 真面目な顔して佐々木くんが急に立ち上がるから、私もピンッと立ち上がった。

 どうしたんだろう?

 佐々木くんから話したいことがあるなんてめずらしい。

 ちょっとは私に心を開いてくれたってこと――

「僕は、親に育児放棄されたんだ」
「え……」

 思わず、間抜けな声が私の口からもれた。

「ま、待って、なんの話?」

 ハッとなって尋ねる。

 どういうこと?

 ふざけて言ってる?

 でも、佐々木くん

「僕が学校に行かない理由をいま君に説明してる」

 真面目な顔してる。

 気だるげでも、なんでもない。

 真っ直ぐな瞳が私を見てる。

「そうじゃなくて」

 私はわなわなと震える唇でなんとか言葉を絞り出した。

 佐々木くん、ぜんぜん説明になってないよ。

「育児放棄って言葉がわからない? 親に捨てられるってこと」

 さらっと言うのはいつも通り。

 そんな冷静に言わないでよ。

 育児放棄って言葉くらい私だって知ってるよ。

「違くて――」
「いいから聞いてくれ……!」
「……」

 私の言葉を遮って佐々木くんが苦しそうな表情をするから、私はなにも言えなくなってしまった。

 実は冷静なんかじゃなくてさ、それが佐々木くんのいまのほんとの気持ちなんだ?

 私、ほんっとうに子供だけど、いつもわからないことだらけだけど、それだけはわかったよ?