「――その犬が気に入ったのはわかるが、君の飼い主が死ぬかもしれないんだ、協力してくれないか?」

 前を向いたまま、唐突に佐々木くんが言った。

 たぶん、ハチに向かって言ったんだ。

 狛犬さんのことをただの犬って言うなんて、佐々木くんは怖いもの知らずだな、なんてぼーっとする頭で考えたりして……。

 本当にもう眠ってしまいそうかも……。

「そっちか」

 ぼそっと佐々木くんが呟くのが聞こえた。

 少しずつ辺りが騒がしくなっていく。

 また駅に向かってる……?

「見つけた」

 佐々木くんのその声に私は閉じかけた目をゆっくりと開いた。

「身寄りのないワンちゃんネコちゃんのために募金をお願いします!!」

 ぼんやりとした視界に映るのは駅前に立つ募金箱を持った男の人の姿。

 大きな声で募金をお願いしながら、身体には前後、犬と猫の写真が貼られた看板をかけている。

「さっき聞こえてたのは、あの人の声か」

 そう言ったのは佐々木くん。

 最初、駅に向かって歩いてるときに、佐々木くんがなにか聞こえるって言ってたの、あれ、幽霊じゃなかったんだ。

「人間……だね」

 いまは佐々木くんと手は繋いでいないから、私に幽霊は見えないはず。

 だから、あの人は人間。

 同じ駅前でも、反対側だったからあの人の存在に気が付かなかったんだ。