「まったく動じてない。さすが肉体がないだけあるな、なにも怖くないんだろう」

 悔しそうで、それでいて意地の悪そうな笑みを浮かべながらなにを言ってるんだろう、佐々木くん。

 もしかして、ちょっと面白くなってきちゃってるんじゃないよね?

 私の命がかかってるんだけど!?

「ねぇ、佐々木くん?」
「ダメだな、次の作戦に移ろう」

 まさか、楽しんでないよね? って私が聞こうとしたら、佐々木くんはタマネギをそのまま冷蔵庫に戻して、自分のと私のコップを流しに置いて、カウンターの向こうから出てきた。

 もうこのお店から出ていくみたい。

 まだ麦茶飲みきってないし、タマネギもそんなそのまま戻していいの?

「じゃなくて……え? 次って?」

 心の中の言葉を振り切って、私は佐々木くんの動きを目で追った。

 すると、彼の動きがある場所でピタリと止まる。

「……なんで、これがここに?」

 そう呟く佐々木くんの視線の先には赤いリボンのついた髪ゴムがあった。

 オシャレで透明なガラスの小物皿に乗ってる。

「それ、なに?」
「……」

 椅子からおりて、私は後ろから佐々木くんに声をかけたけれど、彼はその髪ゴムを手に取って、しばらく黙っていた。

 もしかして、なにか見えてる?

 でも、佐々木くんが髪ゴムについてなにかを私に教えてくれることはなかった。

「なんでもない。行くぞ」

 何分経ったかな?

 髪ゴムをもとの場所に戻して、佐々木くんがスタスタとお店から出て行く。

「ちょ、ちょっと待ってよ、佐々木くん、重くて動きにくいんだってば」

 重たい身体で私は必死に佐々木くんのあとを追った。