「佐々木くん、なにしてるの?」

 私のことは無視して、佐々木くんはまた冷蔵庫を開けていた。

 上のパカッと開くところじゃなくて、真ん中の引き出すところ。

 ゴソゴソって音もして、本当になにをしてるんだろう、と彼の背中を見ながら思う。

「これだ」

 すっと佐々木くんが振り返った。

 その手にはまるまるとした大きなタマネギが……。

「タマネギ地獄にしてやる。犬にタマネギは毒だからな」

 見せつけるようにタマネギを持った手をこちらに伸ばす佐々木くん。

 その顔はいつもより悪い子に見えた。

「それ、バチ当たらない?」

 なんか、ちょっと最低な気がする。

 動物ぎゃくたい、とか、そういうの?

 私のいまの状態じゃ、そんなこと言ってられないかもだけど。

「そのときはそのときだ」

 悪い顔のままで、佐々木くんは茶色いタマネギの皮を手でむき始めた。

 包丁を使わないのは、やっぱり危ないからだよね。

「どうだ!」

 うすいみどりと白みたいな色の中身だけになって、佐々木くんはバッとそれをこちらに押し付けた。

 なにかの必殺技みたいだったけど、佐々木くんはこちらを見つめたまま、わなわなと唇を震わせた。

 あれ? めずらしい顔してる。