「あの女の人が君に取り憑かなかったのは、ハチが君を守ってるからだ」

 そう言いながら、佐々木くんは私のほうに歩いてきて、足下にしゃがんで、なにかを撫でる仕草をした。

 たぶん、ハチだ。

 見えないけど、ハチがここに居る。

「そう、なの? ハチ、ありがとう」

 目には見えないハチを撫でる佐々木くんを見ながら、ハチに会いたいなぁ……、と思う。

 ほんとはハチのこと思い出して、今でも泣いちゃうときがあるんだ。私って弱いなって思っちゃう。

 だから、会いたい。

 でも、仕方ない、今はハチに似てる佐々木くんで我慢するか、なんて思ったのに、もう佐々木くんともお別れなんだ。

「幽霊が見えるって、羨ましいなぁ」

 気が付いたら、無意識にそう呟いていた。

 たぶん、これは私の本当の気持ち。

「羨ましいなんて言われたことない。いつも気味悪がられるだけだ」

 佐々木くんは一瞬驚いたような顔をして、それから、「へんなの」と言いたそうに、ふっと笑った。

 また、佐々木くんが笑った……!

 いつも不機嫌そうな顔してるからちょっと怖いなって感じるけど、笑った佐々木くんは少しかっこいい。

 さわやかで、優しそうで。

「ダメ元でやってみるか……」

 私が頭の中で佐々木くんのことを考えていると、突然、佐々木くんがそう言いながら、こちらに右手を差し出してきた。