「だから、あれが事故かもわからないな。別れを告げてきた男とずっと一緒に居るために、あの人が選んだ手段だったとしたら……」

 そう言いながら、佐々木くんは立ち止まり、なぜか後ろを振り返った。

 私も立ち止まって振り返る。

 なにもない。

「それって――」
「この先を知るのは君にはまだ早い。まあ、悪いことはするもんじゃないってことだ」

 たぶん、ぜんぶ知ってるんだろうけど、佐々木くんはすべてを言わなかった。

 また歩き出して、ただ「物語の終わりがすべてハッピーエンドとは限らない」と呟いただけだった。

『生きた人間のほうが幽霊よりもよっぽど面倒だ』

 歩きながら、佐々木くんの言っていた言葉を思い出す。

 人間って怖い。

 佐々木くん、きっと、あれ以上あの男の人に関わりたくなかったから、あっさりしてたんだ。

「あ、私、こっちだ」

 別れ道で立ち止まり、私は右の道を指さした。

 ここには私と佐々木くん以外、誰も居ない。

「佐々木くん、やっぱり、これからも学校来ないの?」

 歩みを止めない背中に声をかける。

 どうして私、佐々木くんを呼び止めてしまうんだろう。