「ねぇ、一緒に途中まで帰ろうよ」
「勝手にすれば?」

 私が機嫌よく声をかけると佐々木くんはそっぽを向いたまま歩き出した。

 嫌とかダメとか言わないんだ?

 ちょっとうれしくなって、がんばって佐々木くんのスピードに合わせて歩く。

 それから

「あの幽霊の女の人……、明日香さんだっけ? 好きな人に指輪を渡せて喜んでた?」

 どうしても気になってしまって、佐々木くんに尋ねた。

「いいや、すごく怒っていた」
「え?」

 答えはすぐに返ってきたけれど、私が想像していたのと違う。

 いま、佐々木くん、怒ってた、って言った?

「いらなければ受け取らなければいいのに、あの男の人はウソつきだ。いい人を演じてる」

 不機嫌な横顔が、さらに不機嫌に眉間に皺をよせる。

「どういうこと?」

 わからなくて、私はたくさんまばたきをしてしまった。

 また佐々木くんは難しいことを言ってる。

 でも、すぐに佐々木くんは続けた。

「――明日香さんと結婚する約束をしてたのに、あの男の人には他に好きな女の人がいたんだよ」

 佐々木くんのこの言葉を聞いて、ただの不機嫌な顔じゃなくて、佐々木くんは怒った顔をしてたんだって私は気が付いた。