「なに?」

 ダメかな、とも思ったけど、やっと佐々木くんは足を止めてくれた。

「あの……」

 あらためてお礼を言うってなると緊張する。

 佐々木くん、真正面からじっと見つめてくるし。

「だから、なに?」

 ムッとした顔が私にちょっと近付く。

 早く言わなきゃ。

 早くしないと佐々木くん一人で帰っちゃう。

「あの、その! 紗菜ちゃんを助けてくれて、ありがとう!」

 私はちょっと大げさかなってくらいガバッと頭を下げた。

 今回のことは私だけじゃどうしようもできなかったから。

 佐々木くんが居てくれたから紗菜ちゃんは元気になったんだ。

「別に」

 頭を下げた上から、ぼそっと佐々木くんの声が聞こえる。

 わかってた。そう言われるだろうなって。

 でも、たぶん、佐々木くんはいま、嫌そうな顔してない。

 だって、私が頭を上げるとふいって慌てて目をそらしたから。

 もしかして、照れてる?

 夕方の赤い光の中じゃなかったら、佐々木くんの耳が赤くなってるのが、わかったりして、なんて思ったり。