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 もう夕方になってしまったけれど、私はそのままの足で紗菜ちゃんの入院する病院に向かった。

 紗菜ちゃんの病室の前、私の後ろには佐々木くんの姿。

 どうしてついて来てくれたのか、それは佐々木くんも紗菜ちゃんがどうなったのか気になったからだと思う。

「優希ちゃん!」

 病室に入った瞬間、私に気が付いた紗菜ちゃんがベッドの上から笑顔で手を振ってくれた。

 隣には紗菜ちゃんのママも居る。

「紗菜ちゃん! もう大丈夫なの?」

 私は紗菜ちゃんのベッドに近付いて尋ねた。

 顔色もよくなって、見た感じはとても元気そうだけど、まだ心配。

「うん、なんでかわからないけど、もう元気だよ」

 ベッドの上でガッツポーズをして紗菜ちゃんが元気をアピールしてくる。

 でも、急に「あれ?」と言って、病室の入口のほうを見た。

 そこには気だるげな佐々木くんが立っていて、私は彼のことを紗菜ちゃんに説明しなきゃ、と思った。

「えっと、佐々木くん」
「あ、佐々木くんって、あの?」

 私が紹介すると、紗菜ちゃんは少し驚いたような顔をした。

 佐々木くんは相変わらず面倒くさそうな雰囲気を出している。

「そう、佐々木くんが紗菜ちゃんのこと――」
「僕はなにもしてない。ただの付き添い。用が済んだなら帰る」
「え、佐々木くん!?」

 佐々木くんが紗菜ちゃんのこと助けてくれたんだよ、って言いたかったのに、私の言葉を遮って佐々木くんは病室から出ていってしまった。

「ごめんね、紗菜ちゃん、また学校で。待ってるからね?」

 佐々木くんを呼び止めたかったけど、先に紗菜ちゃんに挨拶をしなきゃって早口になる。

「う、うん、ありがと!」

 紗菜ちゃんはまた元気よく笑顔で手を振ってくれた。

 私も笑顔で手を振り返す。

 でも、足はもう病室の外に向いていた。

 佐々木くんにまだ「ありがとう」って、言ってない。

 私は彼のあとを急いで追った。

「佐々木くん、待って。なんで、いつも先に行っちゃうの?」

 早歩きで歩く佐々木くんは、私が追いついたときにはもう病院の外に出ていた。

 本当に早すぎ。

「用事が終わったから」

 真っ直ぐ前を見つめて歩きながら佐々木くんがぼそりと言う。

「まだ終わってないよ」

 私の用事が終わってない。