「来月には結婚しようって、式も挙げようって、約束してたのに……」

 男の人は泣きそうな顔で指輪を見つめて言った。

 佐々木くんは、ジッと男の人の向こう側を見つめている。

 明日香さん、居るのかな、そこに。

「明日香、居なくなって寂しいよ……」

 ぎゅっと握った指輪を胸に、男の人はさらに言葉をこぼした。それなのに

「それでは、僕たちはこれで」

 佐々木くんはなんとも思ってない顔でさらっと言って、その場を離れようとした。

「え? 行くの?」

 思わずきくけど、佐々木くんはもう動き始めている。

 なんか、ちょっとあっさりしすぎてる気がして……。

「もう終わった」

 素っ気ない言葉が返ってきて、私は彼を追うしかなかった。

「届けてくれて、ありがとう」

 後ろから男の人の声が聞こえて、私だけはぺこっと軽く頭を下げた。

 それから、また佐々木くんのあとを追う。

 佐々木くん、黙ってないで明日香さんがなにか言ってれば、男の人に教えてあげればよかったのに、って一瞬思ったけど、男の人もほっとしていたみたいだったし、ちゃんと渡せてよかったなぁ、とも思った。