「あら、こんにちは」

 そう声をかけられて、佐々木くんと私は目を開けた。

「こんにちは」

 佐々木くんが挨拶をしながら頭をぺこりと下げるから、私も同じように頭を下げた。

「孫のために手を合わせてくれてありがとうね」

 私たちが少し横にずれると、おばあさんは枯れた花と持ってきた新しい花を取り替えた。

 まさか、このタイミングで女の人の家族が現れるなんて、本当に私たちは運がいい。

 このおばあさんに話を聞いたり、指輪を渡したりしないの? と思って、どぎまぎしながら佐々木くんを見るけど、私の隣に立つ彼は口をかたく閉ざしている。

 お花に手を合わせて立ち上がり、おばあさんがふうっと息を吐いたのが分かった。

「もうすぐ結婚するはずだったのに、事故だなんて残念よね」

 ぼうっと魂が抜けたような表情で、おばあさんが横断歩道の方を見ながら呟く。

 ひとりごとみたいだったけど、違うってことはすぐにわかった。