「いや、僕たちは運がいい」
「へ?」

 佐々木くんの言葉の意味を知りたくて、私は彼が見ている方向に目を向けた。

 人だ。ちゃんと私にも見える。

 青信号、横断歩道の向こう側、小さな白い花束を持ったおばあさんが、こちらに向かって歩いてくるのが見えた。

「僕がいいと言うまで、君はなにも言わないでくれ」

 おばあさんを見つめたまま佐々木くんがそんなことを言う。

「え?」

 なんで? という目で佐々木くんを見たんだけど、なにも言葉は返ってこなかった。

 その代わりに彼はガードレールのところの枯れた花束の前で目を閉じて、両手を合わせ始める。

 佐々木くんに作戦があるなら私はお口にチャックをして、彼と同じことをするしかない。

 同じように目を閉じて……、ううん、ちょっとだけ薄目を開けながら両手を合わせた。

 緊張からゴクッと私の喉が鳴って、ちょっとはずかしい。

 その間にもおばあさんはこちらに近付いてきて……