「なにもしてないのに自分がボコボコにされそうになったら、自分を守るためにやむをえず相手をボコボコにしていいってこと」

 小林くんの意識を確認しながら、佐々木くんが説明してくれた。小林くんはうぅんとうなっている。

「そうなの? ママは全然そんなの教えてくれなかった」

 私のママは、私が小さいときから、ケンカをしても人を殴ったりしてはいけないよ、って教えてくれた。だから、そんなルール知らなかった。

「君の母親は正しい」
「え?」
「君にはまだ早いってこと」

 同い年なのに、佐々木くんは私にそんなことを言った。また大人みたい。

「おい、いい加減、目を覚ませ、面倒くさい」

 小林くんが全然起き上がらなくて、しびれを切らした佐々木くんが少し大胆に小林くんの服を掴んでグラグラと揺する。

 すると、小林くんはやっと目を覚ましたみたいで、朝起きたときみたいにゆっくりと起き上がった。

 そして、佐々木くんの顔を見るなり

「ひっ、俺が悪かったからもう乱暴しないでっ。君がそんなに優希ちゃんのことを好きだなんて知らなかったんだ」

 小林くんは怖がっている様子で両手を自分の顔の前でぶんぶんと振りながら後ずさった。