「頼むから、僕の後ろからどいてくれないか?」
「え? あ、私?」
「はぁ……、君以外に誰がいる?」

 困って悩んでいたのは私だけだったみたい。佐々木くんは落ち着いた様子で、また溜息を吐いて私に言った。

「わ、わかった」

 慌てて佐々木くんの後ろから離れる私。

「ぐっ!」

 瞬間、驚くべきことに小林くんがゴロンっと歩道に転がった。

 正しくは佐々木くんが転がしたんだけど、どうやってやったのか私にはわからない。

 まるでマジックみたいだった。

「力のかけ方を工夫すると人間は簡単に転ぶ」

 ぼそりと呟くように佐々木くんが言って、歩道に転がった小林くんの頬を「おい、起きろ」とぺちぺち叩く。

「言っとくが、これは正当防衛だ。僕が彼を転がしてなかったら、僕が道路に転がされてた」

 私はなにも言ってないのに、いまの佐々木くんはとてもよく喋る。

「……せいとうぼうえいってなに?」

 ただ、佐々木くんの言うことは難しくて、私にはよくわからなかった。