「ダメだ、ここにはいない」

 ぼそりと佐々木くんが呟く。

「ここにはいない?」

 どういうことなんだろう? 幽霊が居ないってこと?

「完全には彼女に入ってない。記憶の欠片みたいなものだ」

 私が聞いても佐々木くんは難しく答えるだけだった。

「あの、もうちょっと分かりやすく説明――」
「時間だ。今日はもう帰る」
「ちょ、ちょっと!」

 人の言葉を遮って病室から出て行っちゃうって、どういうこと?

「ごめんなさい、紗菜ちゃんのママ。またお見舞いに来ます」

 私はぺこっと頭を下げたけれど、紗菜ちゃんのママは不思議そうな顔で、去っていく私たちのことをずっと見ていた。

 気まずい気持ちになりながらも、私は急いで佐々木くんに追いついた。

「待って、佐々木くん! 今日は、ってことは、また明日、協力してくれるってこと?」

 佐々木くんの横に並びながら私は大きな声で彼に尋ねた。

「まあ、気が向いたら」

 こちらを見ず、前を向いたまま、ちょっとだけ面倒臭そうに佐々木くんが言う。

「それって学校に来るってこと?」

 今日は水曜日、明日も平日だから学校がある。

 もしかして、このまま不登校をやめる、とか? 私が佐々木くんの不登校を止めた?

 私は期待の眼差しを佐々木くんに向けてしまった。

「いや、僕は学校には行かない。やることがある」

 私の期待を崩しながら、彼はやっぱり私のほうを見ない。

「じゃあ、どうするの? 明日はどうしたらいい?」

 どこで会うって言うんだろう? 学校には来ないけど、放課後、外で待っててくれたり……?