男たちの会話から、鳥篭の区域外まで行くことが分かった。
ついこの間、月臣たちが抗争を沈下させたはずの山城組が絡んでいるらしいことも。
でも、どうしてだろう。
山城組は、今までそういう卑怯な手を使うような組ではなかったはずだ。
殺しはしない、と男に言われたけれど、殺されることよりも酷いことは、生憎、この“社会”には、山ほどある。
真意も、自分の行く末も全く読めない。
そのことに対する恐怖で、身体の芯からがたがたと震えだす。浅い呼吸を繰り返して、できるだけ、できるだけ、冷静でいなければと思った。
危険に晒されたことは今までに何度もあった。
だけど、攫われたのは初めてだ。
攫われるだけでは済まないことは、経験がないながらも容易に予想できた。
果てなく膨れ続ける恐怖心を少しでも誤魔化したくて、能海さんと千楽の処遇について考える。
能海さんはともかく、千楽が私の元を離れたのは数十秒間だった。そこを狙われた。仕方がなかったのかもしれないけれど、護衛としては失格だ。
月臣の穏やかな、だからこそ恐ろしい殺気立った笑みと対峙した千楽は、どうなってしまうのだろう。
能海さんにはますます嫌がられるだろうし、月臣の指示で彼が護送の担当を降ろされてしまう可能性だって大いにある。
彼らが受ける仕打ちを想像するだけで、苦しかった。
それだけじゃない。
きっと今頃、わたしのせいで、あらゆる人に、迷惑をかけている。分かりきっているからこそ、罪悪感も募る。