「山城の若頭と連絡が取れねえ」
「はあ? 指定された場所は確かなんだろうな」
「それは大丈夫だ。あの野郎、珍しく別口から依頼してきたぞ。指定場所は、今までにないところだが、まあ、当然、鳥篭の区域は抜けないとな」
「わざわざ面倒な事させやがって」
「天清にお叱りを受けたばっかりらしいから、ばれるとまずいんだろ。ばれるとまずいのにその妹を攫えって矛盾してるって話だけどな」
「はは。何考えてるかわかんねえ。その点、あれだな、雇われの身は頭なんて使わなくても金がもらえるからいい。今回はかなりはずみそうだしな」
再び意識を取り戻したとき、いちばん初めに感じたのは強烈なヤニの臭いだった。
染みついたそれに加えて、現在進行形で、煙草の煙が充満している。
ガダン、ガダンという振動が、直に身体に伝わり、節節が痛い。
車の中だ、と分かった。意識を失う前に起こったことを思い出し、なんとなく今の状況を把握する。
息を潜めて、ゆっくりと瞼を上げた。
薄暗い中で、目だけを動かす。
手は後ろに回されてロープできつく縛られていた。そばには自分の鞄もない。
どうやら、トランクに押し込まれてどこかに運ばれている途中らしかった。
狭いトランクの中では身動きがとれず、ここから逃げるなんてことは到底できそうにない。