二人がいなくなったあと、店内でずっと隣の席にいた男のうちのひとり──月臣が任命した護衛の千楽が、「電車にするか?」とわたしに聞いた。
頷くと、もう一人の男──護衛かつ護送車の運転手をしてくれている能海さんが、「では、おれはこのまま事務所に帰ります」と素っ気ない口調で言い、一礼した後、すぐに去っていく。
能海さんは、一年ほど前からわたしの護衛と運転手をしてくれているけれど、そのことに対してうっすらと不満を抱き続けているようだ。
それを、毎日、ひしひしと感じている。
だけど、そのくらいがちょうどいいのかもしれない。
割り切られた「仕事」は、ときに情がある場合よりも良質だ。
「まじでなんだよ、あの態度。おにーさまに告げ口しちまえよ」
「……ちらくん、口が悪いよ。しない。わたしは、能海さん嫌いじゃないし」
「おれも嫌いではねーよ。日彗への態度が悪すぎて、いい気しないだけで」
「やさしいね」
「別にそうでもないだろ。平気で舐められるなって言ってるだけだ」
「ありがとう」
「なんのお礼だよ」
千楽は、クラスメイトでもあり、鳥篭が結成された三年前からずっと私の護衛をしてくれているので気心が知れている。
銀色の短髪に、左耳の軟骨にはいかついピアスが二つ。
切れ長の目に、泣き黒子が一つ。
ボクシングと空手で全国上位に入る実績があり、単純に、物理的な強さが凄い。