夜の十一時を、置時計が示す。


音をたてないように障子戸を開き、顔だけを出して見渡してみたけれど、廊下には、芹の姿も、知らない者の姿もなかった。


あたりは、しんと静まり返っている。雨はすっかり止んでいたけれど、分厚い雲に覆われた空には月も星もない。


忍び足で縁側まで行き、サンダルを履く。

離れまでの通路はところどころ照明に照らされていて、曇った夜空の下でも、花々はきれいに堂々と咲いていた。


四日間も待たずに、早くからこうしていればよかったのだ、と思いながら、庭まで歩く。だけど、待たなければ分からないことはたくさんあった。

そして、もうこれ以上わたしは、待てないし、待たない。


お屋敷のなかには知らない人の気配はないけれど、正門や裏門には見張りがいるはずだから、強行突破はきっと不可能で、わたしはもう、ここの当主と話をつけるしかないのだった。


まだ、帰ってきてはいない。帰宅は、三日間とも違わず、夜の十一時十分きっかりだった。



平屋の玄関のところにしゃがみこんで、庭を眺める。


白いツツジが花のかたちを保ったまま、いくつか落ちている。強風でそうなってしまったのだろう。


ただの庭園であって、月臣とふたりでここを訪れている状況であったなら、ただ、わたしに相応しい幸福を抱いていられたはずだ。

花は特別に好きではないけれど、きれいなものを月臣とふたりで眺めるのは好きだ。



心細い。寂しい。苦しい。腹立たしい。

あまりにも。

ね、おみだって、そうでしょう。



正常な思考回路とは別の回路がある。月臣と離れている時間が長いと、その回路で考えは巡りがちだ。


そういう呪いみたいなものが、たぶん、わたしにはかけられている。

誰がかけたのかは、分からない。




揺れる花を見ていた。

どうでるかは、相手次第だった。


しばらく経つと、塀の向こうから車の音が聞こえた。

呼吸を整える。


そして、数分後。


───ようやく、お屋敷の当主が、わたしの前に現れた。