四日目の夕方、芹に映画を見ようと誘われて、映画を見るだけの部屋に入った。外は昼過ぎから小雨が降っていて、湿った土のような匂いがしていた。


キャメルのレザーソファに並んで座って、スクリーンに映し出された映像をぼんやりと見つめる。


芹は、マーベルコレクションやカニバリズムコレクションのひとつではなく、少し怪しげな恋愛映画を選んだ。

それは、退屈しのぎのお遊びにはきっとちょうどよかったからだと思う。



ベッドシーンで男の人と女の人が絡み合っている映像がスクリーンいっぱいに映り、部屋には、生々しい音声が響く。



わたしは、スクリーンから目を離さない。

今、横を見たら、きっと楽しそうに微笑む芹と目が合ってしまう。悪趣味だ、と言う権利もメリットもわたしにはない。


それでも。


「すいちゃん、いやに真剣だね」


半身をゆるやかな動作でぴたりとくっつけられ、顔をのぞきこまれる。


本当にきれいな顔をしている。

仄暗い芹の瞳に、わたしは、どれくらい哀れで、弱くて、馬鹿な生き物として映っているのだろう。


埒が。


「……わたしって、いつ、帰ってもいいの、だっけ」

「それ、いま聞くことじゃないね。前に、説明したはずだけど。もう少しじゃない? それより、おれとすいちゃんも、映画と同じことしてみる?」

「……どうして? 芹は、したいの?」

「いや? どっちでもいいよ。でも、してもいいかな。おれは、知りたいものに関しては、とことん知りたいから」



訳の分からないことを言って、芹が顔を近づけてくる。


これ以上は、もう。

────埒が、明かない。


きっと、この男はこういったことに関しては、無理やりするようなことはないだろう。

だから、いちばんの問題はきっと、わたしが、イエスと言うかノーと言うかだった。