「ぜーんぶさ、日彗のおにーさまが、どうにかしてくれないかなあ」


芽蕗のお決まりの台詞に苦笑いを浮かべる。

想葉は、「ほんとだよ」と多少の事情は知っているはずなのに、芽蕗に同調して、冗談半分のため息を吐いた。


「あそこは、よそのお家の区域だから無理、だと思う」

ぼそりと呟いたら、隣の席を陣取る二人の強面の男たちが、ちらりとこちらを見た。

気づかないふりをする。



兄が総長を務める【鳥篭】の存在は、表社会にも広く知れ渡っている。

幹部のメンバーは、若者に恐れられ崇められてはいるけれど、滅多にお目にかかれない孤高の存在なんてものではなく、そのうちの半分は同じ高校に普通に在籍している。

わたしが総長の双子の妹であることも、別に隠されているわけではない。

知っている人は知っている、それでも、どうでもいい人はどうでもいい、その程度だ。


わたしは、ただの総長の双子の妹。

利用価値はある。だけど、わたし自体の価値はない。



閉店時刻の十八時まで、ふたりとたっぷりお喋りをして、喫茶店の前で別れた。

くっついたり離れたりしながら遠ざかる芽蕗と想葉を姿が見えなくなるまで見送る。