何を試されているのだろうか。

耐えきれず、力をいれて手を引いたら、芹はあっさりとわたしの手を解放した。

その口角は、とてもきれいにあがっている。


ただ、わたしを気に入っているわけではなさそうだ。

そもそも会って間もない女を好きになるような男ではないだろう。



彼のことは何も知らない。

だけど、直感がそう言っている。

芹には、別の狙いがあるのだと思う。



好きな女を見るときに、男がどういう目をするのか、経験がないながらにもそれだけは、なんとなく知っていた。

知っていた、というより、この目でそれを見たことがあった。


かわいい恋人と話しているときの虹耀の、彼には全く似合わないほどの眼差しの温かさを思い出す。

わずかでも恋情が混じると、ひとの瞳は特有の変化を見せる。


全員が全員そうではないだろう。それでも、芹が私を見る目つきは、明らかにそういうものとは、違っていた。

自分に向けられたものを正しく判断できている自信は全くないけれど。



「アイス、溶けるよ。わざと? 指はね、舐められると案外気持ちいいもんだよ」

「ちが、う。……ぼんやり、してただけ」

「なんだ。舐めて欲しいのかと思った。残念」


芹が、庭へ視線を移す。

何を企んでいるのか、分からない。

でも、まんまと、ときめいてしまうほどに、わたしは馬鹿ではないし、経験がない。ときめきにだって、経験は必要だ。

でも、そわそわはしてしまう。

判断力はどうしても鈍ってしまう。


ちらりと、横目で芹をうかがう。

彼は、涼しい表情で棒アイスをくわえている。

ひとの指を舐めるのだって、平気でやってのけるに違いない。しっかりとした理性をもったまま。



手の甲には、まだ芹の体温が残っていて、早く、夜風で冷ましてしまいたかった。

恋愛感情とはほど遠そうな、だけど、艶やか目でじっと見られただけで、わたしは簡単に動揺してしまう。



おどおどしていながらも、本当は、何もかも平気なのだと思っていたいのだ。


おみには言わない。

だけど、それがわたしの密やかな美学だった。同時に、常には、そうすることができないのが、現実でもあった。


昨日の夜だって、今だって、そうだ。

間違いなく、自分の一番の弱点はそういうところだろう、と、痛感していた。