す、と衣擦れの音がすぐそばで聞こえる。

芹が、距離をつめてきたのだ。



「ラズベリー美味しい?」

「う、ん」

「一口、ちょうだい。すいちゃんが食べてるのみたら、ちょっと欲しくなった」

「……食べさしで、よければ」


そっと、差し出す。


手が震えてしまったのは、怖いからではなかった。

怖さからくるもののほうがましだった。

ただ、慣れていないからだ。


わたしは、男に、慣れていない。



そのまま、一口齧られるだけで済むと思ったのに、なぜか、芹はわたしの手に自分の手を重ねて、口元までもっていった。

思わず、隣を見上げれば、試すような表情の男と目が合う。

こういうときにどう振舞えばいいのか、わたしは知らなかった。


齧り終えた後も、手を包まれたまま、しばらくじっと見つめられる。


「……あの、手」

「手?」

「アイス、溶けるから」

「溶けたら、おれがきれいにしようか」

「それは、遠慮、する」

「はは、かわいい。女のそういう顔、久しぶりに見たかも」