「そんなに、おどおどしなくていいのに。アイス、ラズベリーと洋梨とどっちがいい?」
「……芹のいらない方が、いい」
「そう? じゃあ、ラズベリーあげる」
「……ありがとう」
夜に用事があるらしい芹はスーツ姿のままで、胡坐も、アイスもあまり似合っていない。
「……芹、その、夕方言ってたと思うんだけど、用事は、まだ大丈夫なの?」
「うん。苑が帰ってくるまでは、ここにいないとだし。あと一時間くらいで帰ってくると思うけど、たぶん、こっちには寄らないだろうね」
「……苑さんは、何を」
「苑のことも、苑でいいのに」
「……それは」
「まあ、あんなだし、怒らせて肉として食べられたらと思うと怖いか」
「……人肉は食べないはずじゃ。……あと、わたしは、美味しくないと、思う」
「はは、女は場合によってはね、甘い味がするよ。すいちゃんは知らなさそうだけど」
「………」
「悪い冗談だったかも。苑は、仕事。昨日すいちゃんを助けてあげたおれのお兄さまは、結構勤勉なの」
「そう、なんだね」
甘くて冷たい棒アイスを、ちろちろと舐める。
不意に、アイスをくわえた芹が、手をこちらに伸ばしてきた。身構えたけれど動くこともできず、そのまま、指先で髪を一束すくわれる。
棒アイスを口から離して、芹が口を開く。
「髪、ちょっと濡れてる」
「あ、……そう、かも」
「しっかり乾かさないと風邪ひくよ。ドライヤー、置いてあったよね」
「……使わせてもらった、けど」
「すいちゃんって、結構面倒くさがりなの? 意外」
髪を指に絡めて、芹はくすりと笑った。
動揺を悟られたくはなくて、アイスを舐めたまま庭を見つめる。