「わたしは、本は、よく読むほうだと思う。女だけど、好き、だよ」

「おれも、男だけど、好き」

「……だから、お気遣い、ありがとう」



何でも好きに選んでいいよ、と言われたので、棚から数冊気になるものを取り出して、一度、自分に充てられた部屋に戻った。


選んだのは、森茉莉全集の一巻と映画におけるカニバリズム史とあと詩集を何冊か。

カニバリズム史については、「苑の本がここにあるなんて珍しい」と芹の方が面白がっていた。




お風呂をいただいた後、芹が部屋まで来て、アイスでもどう、と、こちらに選択肢をはなから与えてはいない口調で尋ねてきたので、全くそういう気分ではなかったけれど、頷いた。



廊下から見える月の光は、つるりと美しく、まるで昨日の夜のことがもうずっと遠くへ行ってしまったような気がした。


その分だけ、わたしはわたしから乖離していく。

長い長い一日は、まだ、終わっていなかった。


気を抜けば、溜息を吐いてしまいそうになる。


天清月臣の───鳥篭のトップをつとめる兄の妹としてではなく、おみの妹としてのわたしは、どうして助けにこないの、とすでに、兄を責めている。迷惑をかけて申し訳ないと思う以上に。



苑の庭が見える縁側に、芹は、腰をおろした。

隣に来るように促されたので、恐る恐る芹の右隣に座る。


庭に咲いた花が夜風に揺れているのが、遠くからでも分かった。