芹によるお屋敷の説明の途中で、朝食を食べた部屋とは別の、広々とした洋室の一角で、わたしたちはなぜか、時間つぶしに、チェスをすることになった。
なぜか、というか、当然、芹の提案だ。
こちらは、時間をつぶしている場合ではないけれど、チェスとなれば別だった。
できるかな、と聞かれて、本当にできなかったらよかったのだろうけど、偶然にも、チェスはわたしと月臣の好きな遊びだったので、頷いた。
事務所でも、時々、やっていた。
鳥篭の幹部の中では、月臣と冷泉が好きだから、三人で。ときどき、よく分かっていないくせに、虹耀が口出しをしてきた。
冷泉がいちばん強くて、わたしと月臣が二位争いだった。
どう攻めるか、何を犠牲にして、何を守るか。
盤上にあらわれるものは、現実でも参考になる。
駒を並べながら、ちらりと芹に視線を向けたら、彼はどういうわけか探るような目でじっとわたしを見ていた。
「すいちゃんは、チェス、誰に教わったの?」
「教わってはない、かな。八歳くらいのときに、兄と一緒に、本で遊び方、知ったから」
「ふぅん」
「……芹、は?」
「おれは、数か月前に知ったばかり」
「誰かに、教わったの?」
「教えてくれなかったから、おれも本で遊び方を調べた」
先でいいよ、と言われ、ポーンを前進させる。芹は、一番右端のポーンを前進させた。
それで、おそらく、わたしのほうが強いだろう、と思った。
結果は、三戦のうち二勝一敗。
予想は当たっていた。
遊びとはいえ、急に頭を使ったからか少しくたびれて、芹の許可を得て一度、客間に戻る。
その途中で、昼食はどうするか、と強制ではなさそうな口調で尋ねられて、いらない、と謝りつつも断れるくらいには、数時間で芹という男にも自分の置かれている状況にも少しだけ慣れてしまっていて、部屋で一人になってからは眠気まで生まれていた。
おおかた、今日はもうどうしたって帰れないのだという諦めが、わたしにそうさせているのだった。