朝食をいただいた部屋の窓から見えた庭は、実際に間近で見るとより美しかった。

色鮮やかなチューリップやヒヤシンス、それから、スズランに水仙、離れたところでは、ツツジも立派に咲いている。


兄と弟、どちらの指示でこの状態が保たれているのか、あるいは、雑務をこなす者の密やかな遊び心なのか。


広がる光景に少しだけ見惚れてしまっていたら、芹がわたしの隣に立つ。



「これ、苑の庭。空いた時間があると、庭仕事してるよ。おじいちゃんみたいでしょ。誰にも触らせないんだよ」

「……苑さんの、庭」

「ひとがひとを食う映画見て、花を愛でてるの。すいちゃん、どう思う?」

「どうかは、分からないのだけど、……この庭は、とても、きれいだと、思う」

「ちなみに、苑は、普段離れで生活してる。ほら、あそこ」


芹が指さした庭の向こうには、平屋の建物があった。

平屋といっても、小屋のような簡易的なものではなく、立派な一軒家だ。


ということは、芹は、お屋敷のほとんどをひとりで使っているということだろうか。


塀の中に、大きなお屋敷と、平屋の家が一軒。

暮らしているのは、二人だけ。


すべてが常識とはかけ離れていて、何に驚くべきなのか、もうすでに分からなくなっていた。



昨夜、わたしを襲おうとした者の顔面を、靴裏で容赦なくぐちゃぐちゃにしていた男を頭に思い浮かべる。

月光に照らされた美しい横顔も。


わたしに差し伸べたのと同じ手で、花を愛でるところを想像しようとしたけれど、上手くいかない。


ただ、彼ならば、とてもきれいにひとを食うだろう。

芹のいう女を食うのとは別の、文字通りの食うだ。


その想像は、するに容易かった。