「すいちゃん、おどおどしてるけど、別に男と話すのには慣れている風だなって思ったから。男の友達のひとりやふたりくらいはいるでしょ」

「……兄がいるからだと、思う」

「お兄さんは、どういうひと?」

「……ふつうだよ。ふつうより、静か、かも」

「好き?」

「……好きか嫌いか、とか、そういうのは、ない。いる、っていうことが、……すべて?」

「なにそれ。変なの」



確かに、変な答え方をしてしまった。思わず、自嘲めいた笑いを零してしまう。

芹は、質問することに早々と飽きたのか立ち上がり、わたしを見下ろした。


「退屈したら、ここで映画でも見たらいいよ。おれのマーベルコレクションと苑のカニバリズムコレクションがあるし。あとふつうの恋愛映画もある。結構そろってるから」

「……カニバリズム?」

「うん。ひとがひとを食うの。苑のお気に入りだから」

「……苑さんも、ひとを食べる、とか?」

「ふは。苑は、女もいやいや食うくらいだし、それはない。あ、ややこしい言い方したけど、分かる? 人肉としては、ありえないってこと」

「……う、ん」

「苑ね、中学のころに度胸つけるために頑張ってそういう映画をみてたら、はまっちゃったんだよ。本人はかたく否定してるけど、絶対そうなんだよね。かわいいお兄さまだよ、そういうところは。最近だと、ボーンズ アンド オールだったかな、確か、気に入ってた。よかったら、見るといいよ。おれはまったく興味がないけど」


苑には秘密ね、と美しい弟は、兄の可愛らしい些細な秘密をひとつ零して、きれいに口角をあげた。



それから、わたしたちは部屋を出て、また少し歩いた。

ひとが二人で暮らすにはあまりにも広いお屋敷だけど、芹にはいたって普通のことのようで、淡々と部屋の説明をしていくから、どれほどの金を持っているのだろう、とこっそり生々しいことを考えていた。