朝食を食べ終えると、芹がお屋敷を案内するというので、おとなしくそれに従うことにした。
朝食の用意をしたのは芹ではないはずだけど、充てられた部屋を出てからは、誰一人見かけていない。
塀の中は、不気味なほどに静かだ。
外から車の走る音や人の話し声が聞こえてくることもない。
「……あの」
「うん?」
「ここは、芹と苑さんのお二人しか、暮らしていないの?」
「雑務をこなしてくれている者の出入りもあるけど、基本的にはそうなるね。すいちゃんに聞かれる前に言っておくけれど、親はここにはいない」
「そう、なんだ」
「知り合いを招くこともないから、こんな形ではあるけど、すいちゃんは本当に久しぶりのお客様だよ」
「……お友達とかは」
芹は、突き当りの部屋の扉を引いて、どうぞ、とわたしが先に入ることを促した。
恐る恐る、中へ入る。
紳士的な振る舞いは、相手への尊重を示す態度ではなく強制を容易くするための手段である。
芹がするのは、そういう感じだ。
キャメルのレザーソファと、硝子戸の大きな棚とスクリーンがあるだけの部屋。
入口のところで部屋を見渡していたら、芹の気配をすぐ後ろで感じた。
「友人って、どういう友人?」
「……どういうって、ふつう、の?」
動けないままに、答える。
硝子越しに棚に、DVDのケースが綺麗に並んでいるのが見えた。サブスクの時代に、珍しいなと思っていたら、くすりと芹が後ろで笑う。