「……芹、は、豆が嫌い?」
目の前の男は、ようやく、顔をあげた。
思い通りにいくとしか思ってなかっただろうに、そうなって、うれしいという表情をする。
警戒心を見せることと、油断していると思われること。
後者の方が、ことが上手く運ぶことだってある───たとえば相手の油断を誘うとか、もう、そう信じるしかない。
芹は、首を横に振って、「どうして。かなり好きだけど」と言った。
「よけている、から」
「好きなものは、いちばん最後に残しておいたほうがいいでしょ」
「……それだったら、わたしの分も、どうかな。まだ、手をつけていない、から」
「他人の分まではいらないよ。すいちゃんは、どっち? いちばん先か、後か」
「場合による、かな」
「これって、よく考えたら、食べ物だけじゃないよね。本当に欲しいものをさ、すぐに手に入れようとするか、最後の最後まで残しておくか。おれは、いちばん最後まで残しておきたいタイプだし。その場合は、すいちゃん、どっち?」
「……心理、テスト?」
首を傾げたら、芹が破顔した。
それで終わったことにして、わたしは答えなかったけれど、本当に欲しいものなんてないから、正直なところ、何と言えばいいのか分からなかっただけだ。
「……そういえば、芹、高校、は? ……今更で、申し訳ないけれど」
「今日は休む。しばらくは、いいかなって。すいちゃんこそ。平気?」
「たぶん。一、二日、くらいだったら」
「あー、どうだろう。すいちゃんをここから出してあげられるまでに、もう少しかかる可能性もある」
「さすがに、それ以上は、色々と困ったことに、なる。兄だって、さすがに、一、二日の話だろうって思っているだろうから」
いや、もう完璧に困ったことにはなっている。
ただ、これ以上迷惑をかける範囲が広がるのは避けたかった。
芽蕗や想葉にも言い訳を用意しなければならないし、学校側ともあまり綺麗ではない面倒な調整をすることになる可能性だってある。
それに、いちばんは。